隆の一撃は思ったよりも深いところに響いていた。

 僕はずっと佳彦に、隆に、寺岡さんに訴え続けた。“僕は死んでいたのに佳彦に生き返された。なぜまた死のうとしてはいけないのか?”と。しかし佳彦への恨みが薄くなり、隆に自分の論理矛盾を指摘された結果、僕の頑なさはいつの間にか可変のものとなっていたかのようだった。

 僕は唖然としてその変化を眺めた。生きている身体を一切関知しないで死として存在していたとしか言いようがなかった僕から、生きていることを感知してしまった死んでる僕への移行。要約すれば、たったコレだけの話。たったこれだけの話なんだ。そのたったこれだけの話が、僕をここまで苦しめた。僕にとってこの葛藤と苦悩と焦燥の期間はなんだったんだろう?

(好きなんだ…君が好き…僕のことどう思ってるの? …君を…本当に…殺してしまうよ…)

 ズキン…と心臓に痛みが走った。僕は、誰にも応えられなかった。

(俺は死んだら永遠に愛するだけじゃなくて、愛されるんだ…って)

 僕の中に、優しくて淋しいあの人たちに応えられるものを、一切持っていなかった。僕が苦しんだだけじゃない。みんなが苦しんだ…僕のせいで。なんどもそれは僕の中で葛藤と共に繰り返されるテーマだった。でも、今なら理解できる。苦しみは増幅していた。僕の苦しみと、人の苦しみと、二つの苦しみがあった。だから余計僕は苦悩した。二つの苦しみの根はひとつだとしても。

 僕には応えられない。だって僕は生きてる肉体に死んだ意識が入ってる見せかけの人間だから…でもなんでそんなちぐはぐな人間が存在してるんだろう…

 その時、携帯が鳴った。見ると、寺岡さんからだった。