「だから、そのヤツが今まで聞いたことないような執念深い声で“犯して欲しい子がいるんだ”って言った時、俺は正直驚いたんだよ。それがお前だったんだけどな。だから見に行った。それで俺がハマった。バカ丸出し」
「でも、もうあんまり恨んでないみたいです。松田さんのこと。なんかもう運命ってどうにもなんないんだなって思ったら、仕方ないって」
「あ! ちょっと人生受け入れたか、裕」
「これが受け入れるってことなんですか」
「そうそう。ある意味諦めるってことだぜ、ほんとさ」

 諦める…そういうことなのかわからないが、寺岡さん相手にわんわん泣いて、何かが変わったことは確かだった。

「とにかくこれから死にものぐるいで勉強しなきゃです。あ、死にませんが」
「ま、そうだよな。3年間なんてあっという間だわ。がんばれよ。お前がそんなこと言ってると、ホント月日が経ったんだなって思うわ…」
「じゃあ、そろそろ寝ます」
「そうだな。まだお前の身体、調子完全じゃねぇだろ。疲れてるんだろうし。早く寝ろよ…いろいろあったからな」
「うん。隆もね。おやすみなさい」
「ああ、じゃあな」

 僕は電話を切った。少し隆の雰囲気が変わったのかも知れない。それは僕自身が変わったからなのかわからないけど。それよりなにより、早くなんとか寺岡さんと仲直りして欲しいなと今はそれを願っていた。

 あんなに愛されてるのに。そっちを向けばいいだけだよ。ただそれだけなのに。

 僕はいまだに相思相愛というものを見ていない。僕に関わる人全員が片思いだった。僕はふと、母親と父親のことを考えた。あの二人は相思相愛なのかな? そんな風に二人を一組として並べてみるなんて、今までの僕にはなかった発想だった。