「そんなのに手首ぶった切ってたってのは…もしかしたら、あの時本当にお前、ヤバかったのかもな。俺の想像以上にな」
「そう…ですかね…初めてでしたから…他人に助けてって思ったの」

 期待させたくないのとは裏腹に、僕はそんなことを口走っていた。

「それを俺は腹立てて“死ね”って言ったんだよな、思えば」
「でも、結局僕は死ななかったんです。今も生きてる。不思議です。でも、考えてみれば、松田さんと出逢ってから僕は自殺っていうことを考え始めた気がします。それまではそんなこと考えてもいなかったし…」

 僕は佳彦と出逢った当初のことを思い出していた。死の中に安住して死を考えてもいなかった僕は、佳彦のせいで死を夢見るようになった。殺してもらえなかったら、自分で帰るしかない…だから自殺を選んだだけ。でも、その頃には佳彦が、僕の死を快感で染めていた。快感は同時に嫌悪感に染まっていた。だから、より僕は死を選びやすくなったのかも知れない。

「松田は鬼畜だからな。お前が自分で思ってるよりきっとお前、ダメージ大きいんだぜ、きっと。あいつと一緒に若い子犯してると、可哀想になってきてな。だからツルむのやめたんだ。何度も何度も落とすだろ…嫌がって泣く子に黙れとか殺すよとか言ってキレるし、抵抗すると縛ったり殴ったりして言いなりにしてまた無理やり落とすんだ。俺も人のことは言えねーけどよ。でもよ…そんなことやりながら終わった後でカラッとした顔で“気持ちよかったぁ”とか言いやがんの。情がねぇんだな、ありゃ。ちょっと引くぜ」

 隆は“僕が傷ついてる”と寺岡さんと同じようなことを言ってため息をついた。隆の話の中の佳彦は、僕の知ってる佳彦と同じような違うような、変な感じだった。僕は本当はどこをどういう風に傷ついたんだろうか。