「きっと、本気で殺してくれそうだったから。期待が大きかったんです」
「結局そこかぁ」
「僕をこんなにした責任取れって感じで」

 と、僕は寺岡さんに言ったことと同じことを反復した。でももう、言ってみても責任を取って欲しいという感覚はあまりないことが分かった。自分の感覚が少し変わっていたことに気づいた。それに、ほんとに殺そうとしてくれたのは結局、隆だった。当然こんなこと隆には言いたくても言えない。

「でも、もういいみたいです。それを求めてるときっと発作も克服できないような気がするし」
「まぁ、台無しになっちまったがな、あの日が。あのバカのせいで」
「そうでもないです。僕はあの人からいろいろ成果をもらえたんで。あとは自分次第じゃないかなって。自分次第って思えたのもあの日があるからです」
「へぇ。強くなったんだな…お前も。少し安心したわ」
「隆と母親が悲しむから死のうとも思わなくなってるし」
「いいことだぞ。そういうストッパーがねぇとな。俺が報われねぇし。でよ、それとな、裕はいつも“なにかを壊そうとか殺そうとかって欲望はない”って言うじゃんよ。そんならお前は、お前自身の身体にもそれを当てはめたことあるかよ」

 それは隆の渾身の一打だった。僕はそれを食らって、しばし茫然とした。

「おい、聞いてるか?」
「…あ…ああ、確…かに」
「盲点だったろ」
「はい…そうですね…たしかにそうです」
「案外わかってないもんだな。あっははは」

 鬼の首を取ったような言い方をして、隆は笑った。それは完全に僕が自分で言ったことと矛盾していた。

「それいつ気づいたんですか?」
「いま」
「すごいですね。僕、参りました」
「あーあ。付き合い長いってのはこういうことなんだわな。だから裕、お前は多分、自分を自分で壊せねぇよ。お前、実は自殺は嫌いなんじゃねぇのか? いつも止めるだろ人のこと。自分は死にたがってるくせにさ」

 最後通牒みたいにそれは響いた。僕には言葉もなかった。