「ほら、目を離すなって」

 寺岡さんが僕の後ろのソファに座った。耐え切れずにうつむいている僕の頭を後ろから両手で挟んで、前を向かせた。吊るされた男が目の前で微笑む。あっ…だめっ…匂いがまた…消えていく…

「まっ…待って…あっ…」
「ダメでしょ、見てなきゃ。君が実際どうなるのか自分で知らなきゃ。2時間見続けるんだよ? あんな忙しい仕事、目をそらしてるヒマな時間なんかないよ。震えた手じゃメスも握れないよね」

 目を背けられない。また一気に熱とノイズが僕の身体を冒す。頭を固定されたまま僕はたまらずに身体をよじらせて身悶えた。

「うああっ!」
「どうするの? やめる? 君の人生だ…好きにしたらいい」
「あっ! 寺岡、寺岡、ちょっと待て! こいつの首、気をつけろよ! 失神するぞ!」

 いきなり思い出したように隆が寺岡さんの肩に手を掛けて怒鳴った。

「あぁ…そっか。無理は禁物かぁ」

 寺岡さんはゆっくり手を離した。隆が大きく息をつくのが聞こえた。そうだった。自分でも忘れていた。

「ごめん。具合悪くない?」
「だ…だいじょ…大丈夫…」
「難しいな、君は。いじり壊されてるからな」
「すまん…」
「ホントだよ…自分を突き詰めも出来ない。不幸だ」
「それは…僕の…せいです…から」

 僕のことで二人が互いに責め合ってるのを聞いているうちに、僕は本気で自分を自分の力でどうにかしないといけないんだと気づいた。波のように襲ってくる性感に耐えながら、人は人に頼れないこともあるんだと思った。知らないうちに僕は人に頼ってる、というそれにも驚いた。

「始まってから…どれくらい…ですか?」
「40分…くらいかな」
「厳しい…ですね…でも…どうにか…しなきゃ」
「どうにかしたいの?」
「ええ…自分で…やんなきゃ」
「そうだ。裕君。君がそう思ってるとわかって良かった」

 寺岡さんが優しい声で僕にそう言った。

「あのよ、対策不足じゃねーの? 効果は否定しねぇけどさ。もう少し決定打つーのかな。欲しいよな」
「ああ、そうだよね。それはそう思うよ」

 隆が言ったことに初めて寺岡さんが同意した。