「はい」

 画面が一瞬で明るくなった。あの画像が再び鮮やかに目に飛び込んできた。冷やしたはずの下腹部が、ドクン、と脈打った。

「ああっ…なん…で…」
「おい、寺岡、お前!」
「だって君、司法解剖、何時間かかると思ってんの? 屍体がログアウトしてくれるの? 違うでしょ? 2時間くらい君の前で横たわってるんでしょ!」
「あ…ああ…そう…で…す…」

 僕は股間に保冷剤を両手で押し当てたまま床の上で再び震え始めた。

「じゃあ、どうするの? 裕君…」
「2…じかん…耐え…あぁ…」
「無理なら、諦めるんだね。進路考えなおしたら? そんなに無力だったら」
「そっ…それは…」
「解剖実習は早い医大では1年生から実習がある。あともう3年で君、大学生だよ? 無理なら無理で、早めに第二希望を考えたほうがいい。3年なんかあっという間だ。現実と理想を近づけるには、飛躍が要る時がある…」
「おいおい、いまここでそれ言わんでもいいんじゃねーか?」

 寺岡さんの冷静すぎる言葉に反応して隆が僕をかばおうとする。でも寺岡さんの言うことも納得できる。

「でも裕君の為を思うなら現状を把握しないとね。なにがどう無理で、どんな可能性があるか…こんな激しい発作、こんな苦しんでまで現実をねじ伏せる必要があるかどうか…それと、裕君の…意志もね」

 意志。その言葉くらい、自分にいままで問うことのなかった言葉は無かったかも知れなかった。