僕はソファの上で膝を丸めて、震える身体を両腕で抱いて押さえつけていた。ティッシュはとっくに床に落ちていたが、拾うことも出来なかった。

「熱いっ…やだ…」
「おんなじか? 裕…あの時と変わらないか?」

 隆が僕に聞く。とても優しく、悲しげにそれが響いた。

「わからない…どうすればいいですか…どうすれば…」
「どうすればいいと思う? 裕君!」

 寺岡さんが逆に僕に尋ねた。

「どうすれば…? あ…も…だめっ…」

 ソファの背もたれに顔を押し付け、必死に僕は感覚に飲まれないように耐えていた。息が上がっていく。考えなきゃ…自分で…恢復しなきゃ…でもどうやって…
 僕はギュッと目を閉じた。どうにかしなきゃ…やれることは2つ。もう一度取り返す。僕の嗅覚野…それから…熱を冷やす…身体に氷を抱いて…

「寺岡…さん…ミントの瓶…下さい…」

 上がった息の隙間から声を絞り出す。わなわな震える手を伸ばし、その手に誰かがガラスの瓶を掴ませてくれるのを待った。

「これ…掴んで!」

 寺岡さんの声がした瞬間に、僕の指に瓶が当たるのがわかった。僕は夢中でそれを握りしめた。