母親は明日の検査を待って再度迎えに来るということになり、僕と小島さんは病院という特殊な場所で初めてのお泊りとなった。寺岡さんは僕の母親を見送った後帰っていった。

 夜中に不意に起きると、小島さんのベッドのカーテンが開いていて、もぬけの殻だった。僕はこっそり小島さんを探しにスリッパを履いて廊下に出た。トイレを探したがいないので、昼間車いすで通った談話コーナーに行った。小島さんは一番奥のソファの端に座っていた。ぼんやりと窓から街の灯を見ているようだった。そのうち僕のスリッパのパタンパタンという音に、ギクッとした様子で振り返った。

「なんだ…裕か…」
「びっくりしましたか」
「ああ…看護婦かと思った」
「眠れないんですか?」

 小島さんはフッと笑ってうつむき、僕の問には答えなかった。

「もう…ちゃんと歩けるんだな」
「はい。歩けますね。気が付かなかった」
「危ねぇな」
「隆こそ」
「俺はだいぶ良いよ。心配なんかするな」
「あ…はい」

 僕は小島さんの隣に座った。小島さんの顔が固まるのがわかった。

「なんで怒らねぇんだよ」
「なんで怒るんですか?」
「…当たり前だろ」
「ウツだって…隆のこと寺岡さん、そう言ってました。内緒だったんですか?」

 小島さんは背もたれに身体を沈めてうなだれていた。