「それで応急処置までしてもらってさ。その時はもう殺されるって思ってたから、ほんとに小島君がナイトに見えたよ。マジで。それで事の次第を訊かれて答えたら、小島君酔っ払ってたから一瞬で怒り心頭になって、ボコボコにされちゃった。モモは痛いし、口の中は切るし、まあ、最悪だったよね。でも救急車呼んでくれて、もう、そういう卑怯なことはするな、とか言って去って行ったんだよ…なんか自分のことながら映画観てるみたいでね、ボコボコにされてたけど案外感動しちゃってさ」

 ホントに映画みたいだった。陸自の実践練度を垣間見た気がした。そして、ボコボコにされながらもそれに感動してる寺岡さんも策士の割には奇特な人だと思った。

「三国志だったら、ここで義兄弟の契とか結ぶんだろうけどね。でも私はその代わりに他人様のものを黙って奪うのはやめようって思ったんだよ。いわゆる改心したってやつだ。まぁ、こんな目に合うっていうのがけっこう堪えたんだろうね。かなりな怖さだった。で、こんな奴をかばってくれる人もそうそうは居ないだろうってさ。2度めはないってどっかでわかってた。ある意味啓示だな」

 病室に着いて、僕はまたベッドに横になった。ふらつきもかなりは治まっていた。小島さんは落ち着いたせいか眠っているようだった。寺岡さんは小島さんに聞こえないように、小さな声で僕に囁いた。

「でもこれで、恩返しは出来た。君、いい仕事したね。死に損なって君的には残念かも知れないけどね。小島君にはいいキッカケだった。もっと彼は自分の内面と直面しなきゃね。自殺未遂も場合によっては良いもんだ…君の後遺症が残らなければ、だけどね。ああ、そうそう、君のお母さんがすぐ来るって言ってた。ここ君の家から案外近いみたいだね。私が説明しておくから寝た振りでもしていてよ」
「あ…はい。ありがとうございます」

 そのあとすぐに本当に母親が駆けつけてきた。僕の狸寝入りを見てから母親と寺岡さんはどこかに出て行った。これはまた思いもよらない方向に行ったなと僕は思った。