けれど、彼はやっと彼らしく、下駄を高く鳴らして、低い声で言い放つ。

「戻れるわけがないだろう。戻る気もない。お主らの顔も見たくない。俺はもう無関係なのだ。好きに暮らせ」

彼はそう言い残し、大股で歩き去っていく。

行き先も知らない足が、迷いもなさそうに暗い夜道を進んで、彼もまた見えなくなっていった。

琴弥の口から、好きに暮らせなんて言葉を聞くとは思ってもみなかった。

目の端で夜空を見上げる。

いつもとなんら変わりない夜なのに、たくさんのことが変わった夜だ。

私はくるりと身をひるがえす。

そこには、静かな眼差しを送る紫希がゆったりと立っていた。

私はそんな彼に駆けより、身を寄せる。

するとそんな私に、村の人々が、こんな闇の中でもキラキラと素敵な笑顔を向け、待っていたのだ。

私は目を見開いた。

そして村人のまん中から現れた七瀬くんが満面の笑みでひょっこり顔を出す。