なぜか自然と問いかけてしまった。

私たちに半分背を向けた、大きな黒い翼に。

皆の声がすっとやんでいき、彼へと視線が集まる。

彼は背を向けたまま、肩を落とし、今も気高そうに天を仰いでいた。

「野暮なことをきく女だ……。俺はもう、総代でも何でもないんだぞ。ずっと頑なに守ってきた九条の名は、地に落ちたのだぞ。これ以上足掻いて、醜態をさらせというのか……」

ぶら下がっている手がもどかしげに空を掴んでいた。

声が少しだけ震えている。

彼はまだ背中で話す。

「酷い話だよな。俺は幼少の頃からおじい様に叩きこまれてきた烏天狗のしきたりを、懸命に守り抜いてきたというのにな。皆そんなもの、忘れてしまっている」

私は口をつぐみ続けた。

彼の声があまりに弱くて、少し驚いているのだ。

いつも威圧的に大きく見せていた漆黒の背中が、今はとてもしぼんで見える。