私はあかり。
篠崎あかり。
親を無くしたのは私が小学校
5年生の時。
優しいお母さんとかっこいいお父さん。二人とも自慢の両親で、
私はお父さんのことも、お母さんのことも大好きだった。

なのに…

「キャァァァァアーー」
「逃げろ!!!!!」

久しぶりのお休みだといって、
家族で来たデパートでのこと。

突然聞こえてきた悲鳴。
真っ白になる思考。
動かない体。
そこにゆらりとやってくる
刃物を持った男。

男と目があった。

ニタリ

…っ。

キモチワルイ…。

突然男は刃物をこちらを向けて
走ってきた。

あぁ、刺されちゃうんだ…

動かない体をどうすることもできず、
襲いかかるであろう痛みに耐えようと、目をギュッとつぶった


グサッ

肉に刃物が刺さる音がした。

しかし

痛くない。なんで?…

包丁が刺さったんでしょ?

痛くないわけがない。

なんで…?

そこでやっと気づいた。

え…?なんでお父さんがいるの?
なんで…なんでお父さんのお腹に包丁が刺さってんの?

なんで、なんで、ナンデ…?


ぽたぽたと垂れるあの赤色の液体は、
なぁに…?

その液体はお父さんのお腹から溢れ、
足を伝い、足元に赤い水たまりを作る。

「娘を殺されてたまるか」

真剣な顔をして、男に叫んだお父さん。

男はニタニタしながら、

ザシュッ「あぁぁぁぁあ!!!」


…父さんに刺さっていた刃物を抜いた。

絶叫し、お父さんは…こと切れた。


「いやっヤダっなんで!なんで!」

お父さんにすがりつくお母さん。

男はまた、ニタリと笑い、お父さんの血に染まった包丁で、

「おっ…お母さんっ逃げて!!!」

「え…?」振り返ったお母さんの胸に

グサッ

深く深く突き刺さったのだった。

「い…いやぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」

私は絶叫し、そのまま意識を飛ばした。


そして気づけば病院の病室で横たわっていた

あぁ。一人になってしまったんだ…。

検査をしたところ、
特に異常もないということで。








それから、あっという間に時が過ぎ…

「この度は誠にご愁傷様です…。」

「恐れ入ります…。」

今日は両親のお葬式。

知り合いだったらしい人が代わる代わる
やってきては私に挨拶をしていく。

頭が真っ白で涙も出ない。

涙は…あの時に全部流してしまったから。

こんな私を見た親戚の人は、

「まぁ、涙も流さず、気丈に
振舞って…」

親が死んだっていうのに涙一つ流さないって、薄情な子ね。

「これから大変ね…」

でも私たちが引き取るなんて、
とんでもない。

心の声が聞こえるわけではないが、
言いたいことが何と無く伝わってくる。


涙?もう枯れちゃったよ。

引き取ってくれなくていい。
別になんとか生きていけるから。

父と母は煙となり、空へ上って行った。
私一人を遺して。



一人で生きていけると言ったって、
私はまだたった小学5年生。
結局お母さんのお姉さん。つまり私の
叔母さんにあたる美咲叔母さんのところに
引き取られることになった。


美咲叔母さんと秀人叔父さん。
そしてその子供の秀夜くん(高2)と、
美紅ちゃん(中3)。

最初は、
「辛かったでしょう?ご飯食べて、元気になるのよ?」
「こんな可愛い子をおいていくなんて…
犯人が許せないな…」

とか何とか言ってたものの、
しばらくすると化けの皮が剥がれてきた。

「あかり、洗濯はできてんの?」

「すみません、まだです。」

「まだですって⁉︎何をグズグズしてる
の?ふん、美希も余計な荷物を
遺してくれたわね。
ほんっとめーわくしちゃう。」

美希とは叔母さんの妹。つまり私の母。

最初は優しかったはずの叔母さんは、
叔父さんの仕事がうまく行かなくなった
辺りから、だんだんと、私にあたるようになった。