名前を呼ぶと、彼は人懐っこく笑った。


「もう下校時間、とっくに4時過ぎてるぞー」


いつも通りに話しながら私のいる一番上まで階段を上る本田君。


さっきのことが嘘みたいに思えたくらい、普段通り。


そんな本田君になんていいか分からなくて、私は黙ったまま顔を下に向けていた。


最後の段を上って、私の隣までくると少しの距離をあけて座る。


沈黙。


どちらも何も言おうとしないこの空気に耐えられず顔をあげる。


「あ」


あげて目の前に見えたのは影。


寄りかかる透明なドアから差し込む夕日で長い影が伸びていた。