ルトは、アスラが城を抜け出した手段や目的について、訊きたくても訊けなかったのだ。


心を許した者へはおしゃべりなアスラが、それでも自身から話さなかったということはつまり、話すべきでないということ。

ルトはそれを察して、訊けなかったのだ。


だが、隠し通路のことなど知らず、もちろんアスラが魔人と共に空から戻ったなどと思うわけがない。

考えられる可能性があまりに危険なものだったので、ルトはアスラを心配してあんなことを言った。


ルトの心遣いに、アスラが思わず瞳を潤ませた、そのとき。


「いい従者だな。ちんちくりんには勿体無い」


頭上から知った声が降ってきた。

――知った声だが、ここにいるはずのない者の声だった。


「な……っ!?」


驚いて振り向いたアスラを、無表情に見下ろすのは。


「イフリート!? おまえ、なんでここに……!」