少しずつ、少しずつ後ずさっていき、やがて曲がり角に差し掛かったとき。

アスラは脱兎のごとく走り出――そうとして、しかし何かにぶつかって、尻餅をついた。


腰をさすりながら顔を上げると、背が高く屈強な体つきの男がにやにやと笑いながら立っている。


その男が、アスラの背後に向かって「よう」と声をかけたのを聞いて、アスラは表情を凍りつかせた。

振り返ると、そこには案の定、追いついた赤ら顔の男が立っている。


(挟まれた……!)


どうすればいい。大人しく水差しを渡すべきだろうか。

でもここで水差しを手放せば、今後いつ母の薬を手に入れる機会が巡ってくるかわからない。

だからってこの男二人に勝てるわけもない。

どうすればいい。どうすれば――。