「君は、あそこで何をしていたの」


男が言った。


「……あそこ?」


「君が出てきたあの部屋のことだよ。

あの部屋は外から鍵がかけられていて、もう何年も開けていないと、宿屋の店主に聞いたんだけど。

君、どうやって入ったの」


すると、男は宿屋の客だろうか。

やっかいなところを見られてしまった、と、アスラは苦い顔をした。


「おまえには関係ない」


「あるさ。宿屋の店主は私の友だ。

マルワーンから宿屋を預かっているが、あの部屋については何も聞かされていないらしく、気味悪がっている」


低く柔らかな声で言う男は、しかし柔和そうな眼の中に鋭い光を宿して、アスラをまっすぐに見る。