教室に足を踏み入れる。
しかし、私に声をかける者は誰一人いない。特にいじめられている訳ではないが、無口な私はみんなにとって近づきにくいのだろう。
朝のホームルーム。
担任の理科教師が、活気のない口調で言う。
「ホームルームの前に転入生を紹介しまーす。」
担任に手招きされて入ってきたのは、朝見かけた女の子だった。正面から見ると、顔が整っているのがよくわかる。まるで人形のようだ。
冷静に考えている私をよそに、彼女は自己紹介をはじめる。
「坂本凜です。親の仕事の都合で、ひっこしてきました。」
(!?)
どこかで聞いた名前だ。だが、とても近くて遠い気がする。
一瞬彼女と目が合った気がした。
「坂本の席はそこな。」
担任が指さしたのは、私の前の席だった。
坂本凜は、私の前まできて、
「はじめまして!よろしくね!!」
一言、ささやいた。