カラダ探し~第三夜~


「今……何か言った?」


辺りを見回して、誰が言ったのかを確認するけれど、それらしい人はいなかった。


「何かって……何も言ってないけど。あ、風の音が何か言ってるように聞こえたんじゃないの?」


そうなのかな?


でも、夢の中の女の子が言っていたような気もするけど……誰もいないよね。


「空耳……かな。だったら良いや。早く学校行こ」


大通りに出て、学校に向かって歩いていると、他校の生徒も通学中で。


その中に、私の名前を呼んだ人がいないかと、チラチラ見てみるけど……それらしい人はいなくて。


「あー、降ってきたな」


高広の声で、我に返った私は空を見上げた。


ポツポツと降り始めた雨が、私の頬に当たって弾ける。


そして、徐々に強くなる雨に、慌てて傘を開いた私が、それを頭上に上げた時……その声は聞こえた。











「うわっ! やっぱり傘を持って来るんだった! 走るぞ滝本!!」













こんな空なのに、傘を持って出なかったバカがいるんだ。


他校の生徒だろうなと、声が聞こえた背後を振り返った私は……傘を落として立ち尽くした。

金髪の生徒と一緒に、今私達が通って来た道に入った男の子。


ほんの少ししか見えなかったけど……その姿は、とても良く似ていたのだ。


傘もカバンもその場に残して、自分が何をしているかも分からずに、私はその男の子を追いかけた。


夢で見た、私に手を差し伸べてくれた男の子。


名前も知らないし、見た事もないはずなのに。


「ちょっと……待ってよ!!」


ただの夢なのに、どうして私はこんなに必死になってるんだろう。


今日じゃなくても、明日でも別に良いはずなのに。


だけど、ずっと待ちわびた人が現れたような気がして、追いかけずにはいられなかった。


しばらく走って、民家の軒下で雨宿りをしているふたりの姿が、前方に見えた。


強くなったり弱くなったりを繰り返す雨。


私に降り注ぐ雨が、少し弱くなった時だった。


「よし、また走るぞ!」


金髪とふたり、再び軒下を飛び出した男の子。


私より足が速いふたりは、どんどん差を広げていく。

これ以上離されると、もう追い付けなくなってしまう。


どうして男の子を追いかけているのか、追い付いて何を話せば良いかも分からないのに。


私は、何も考えずに男の子に向かって叫んだ。













「ま、待ってよ……行かないでよ! 龍平!!」
















どうしてその名前を叫んだのか。


走るのを止め、私は雨に打たれて、そこに立っていた。











すると……前方の男の子も立ち止まって、辺りをキョロキョロと見回したのだ。












名前を呼んだとたん、胸が苦しくなって、涙が溢れる。


私はあの男の子がどんな人なのか知らない。


でも、ずっとずっと昔に、大切な約束をしたような気がして、もう一度声を上げた。













「龍平!!」













今度は間違いないと思ったのか、振り返って、ずぶ濡れの私にその顔を向けた。


間違いない……夢の中の男の子だ。


知らないはずなのに名前が頭の中に浮かんで、すがるように呼びかけたけど……。


不思議そうに、私を見ている龍平。








そうだよね。


私が見た夢の話なんだから、龍平が知るはずないよね。

それでも、もっと姿を見ていたい、話したいという想いが強くて。


雨がまた強くなっても、龍平をずっと見ていた。


近付きもせず、離れもせずに、ただ立ったままで。










そんな中、最初に動いたのは……龍平だった。












「夕方4時にここで待ってる! 約束だからな! 絶対守れよ!」


そう言って、大きく手を振って走って行った龍平を、私は涙を流して見送った。











遠い昔に交わした約束。











誰かに言われた、「幸せになってね」という言葉が、この事だったのかなと考えながら、龍平の背中に手を振った。









約束……守るからね。










end
皆様お久しぶりです。


ウェルザードです。


この物語、留美子編はここで終わります。


小野山邸に向かった明日香達はどうなったのか、どうして明日香と遥が美子の棺桶に赤い服を入れていたのか。


それは、最後の作品で語られます。


まあ……書籍化が決まればの話ですけどね(笑)


この作品を書く時に、留美子編ともう一つの話を書こうと決めていました。


つまり、次の作品と第三夜で第二夜の、カラダ探しが終わってからの話が完結すると考えてください。


まだ完結編の半分。


足りないもう半分を公開出来る事を、今から祈っています。


最後の作品が書籍化する(?)頃には、別の事を発表出来るかもしれませんし。


とうとう3/4が終わりましたね。


去年の今頃、カラダ探しの記念すべき一冊目が出て、あっと言う間に一年が経ってしまいました。


本編はもう、別サイトで完結していますが、この設定だとスピンオフなんかがまだまだ作れそうですね。


……なんて考えたりして。


カラダ探しはね、結構頭使うんですよ。


特に今作なんかは、6個×5人の大量のカラダ探しでしょ?


どこにカラダを配置して、どう動かすか……。


校内放送の声の主は僕だったかもしれませんね(笑)


だって、行かせたくない所や、主人公達を誘導する為に赤い人を移動させたんですから。


書いてて半分くらいで後悔しました。


でもまあ、上手く終わって良かったです。


では、またお会い出来る事を願って。


ここまで読んでくださってありがとうございました。


これからも応援よろしくお願いします。


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