「今……何か言った?」
辺りを見回して、誰が言ったのかを確認するけれど、それらしい人はいなかった。
「何かって……何も言ってないけど。あ、風の音が何か言ってるように聞こえたんじゃないの?」
そうなのかな?
でも、夢の中の女の子が言っていたような気もするけど……誰もいないよね。
「空耳……かな。だったら良いや。早く学校行こ」
大通りに出て、学校に向かって歩いていると、他校の生徒も通学中で。
その中に、私の名前を呼んだ人がいないかと、チラチラ見てみるけど……それらしい人はいなくて。
「あー、降ってきたな」
高広の声で、我に返った私は空を見上げた。
ポツポツと降り始めた雨が、私の頬に当たって弾ける。
そして、徐々に強くなる雨に、慌てて傘を開いた私が、それを頭上に上げた時……その声は聞こえた。
「うわっ! やっぱり傘を持って来るんだった! 走るぞ滝本!!」
こんな空なのに、傘を持って出なかったバカがいるんだ。
他校の生徒だろうなと、声が聞こえた背後を振り返った私は……傘を落として立ち尽くした。
金髪の生徒と一緒に、今私達が通って来た道に入った男の子。
ほんの少ししか見えなかったけど……その姿は、とても良く似ていたのだ。
傘もカバンもその場に残して、自分が何をしているかも分からずに、私はその男の子を追いかけた。
夢で見た、私に手を差し伸べてくれた男の子。
名前も知らないし、見た事もないはずなのに。
「ちょっと……待ってよ!!」
ただの夢なのに、どうして私はこんなに必死になってるんだろう。
今日じゃなくても、明日でも別に良いはずなのに。
だけど、ずっと待ちわびた人が現れたような気がして、追いかけずにはいられなかった。
しばらく走って、民家の軒下で雨宿りをしているふたりの姿が、前方に見えた。
強くなったり弱くなったりを繰り返す雨。
私に降り注ぐ雨が、少し弱くなった時だった。
「よし、また走るぞ!」
金髪とふたり、再び軒下を飛び出した男の子。
私より足が速いふたりは、どんどん差を広げていく。
これ以上離されると、もう追い付けなくなってしまう。
どうして男の子を追いかけているのか、追い付いて何を話せば良いかも分からないのに。
私は、何も考えずに男の子に向かって叫んだ。
「ま、待ってよ……行かないでよ! 龍平!!」
どうしてその名前を叫んだのか。
走るのを止め、私は雨に打たれて、そこに立っていた。
すると……前方の男の子も立ち止まって、辺りをキョロキョロと見回したのだ。
名前を呼んだとたん、胸が苦しくなって、涙が溢れる。
私はあの男の子がどんな人なのか知らない。
でも、ずっとずっと昔に、大切な約束をしたような気がして、もう一度声を上げた。
「龍平!!」
今度は間違いないと思ったのか、振り返って、ずぶ濡れの私にその顔を向けた。
間違いない……夢の中の男の子だ。
知らないはずなのに名前が頭の中に浮かんで、すがるように呼びかけたけど……。
不思議そうに、私を見ている龍平。
そうだよね。
私が見た夢の話なんだから、龍平が知るはずないよね。
それでも、もっと姿を見ていたい、話したいという想いが強くて。
雨がまた強くなっても、龍平をずっと見ていた。
近付きもせず、離れもせずに、ただ立ったままで。
そんな中、最初に動いたのは……龍平だった。
「夕方4時にここで待ってる! 約束だからな! 絶対守れよ!」
そう言って、大きく手を振って走って行った龍平を、私は涙を流して見送った。
遠い昔に交わした約束。
誰かに言われた、「幸せになってね」という言葉が、この事だったのかなと考えながら、龍平の背中に手を振った。
約束……守るからね。
end
皆様お久しぶりです。
ウェルザードです。
この物語、留美子編はここで終わります。
小野山邸に向かった明日香達はどうなったのか、どうして明日香と遥が美子の棺桶に赤い服を入れていたのか。
それは、最後の作品で語られます。
まあ……書籍化が決まればの話ですけどね(笑)
この作品を書く時に、留美子編ともう一つの話を書こうと決めていました。
つまり、次の作品と第三夜で第二夜の、カラダ探しが終わってからの話が完結すると考えてください。
まだ完結編の半分。
足りないもう半分を公開出来る事を、今から祈っています。
最後の作品が書籍化する(?)頃には、別の事を発表出来るかもしれませんし。
とうとう3/4が終わりましたね。
去年の今頃、カラダ探しの記念すべき一冊目が出て、あっと言う間に一年が経ってしまいました。
本編はもう、別サイトで完結していますが、この設定だとスピンオフなんかがまだまだ作れそうですね。
……なんて考えたりして。
カラダ探しはね、結構頭使うんですよ。
特に今作なんかは、6個×5人の大量のカラダ探しでしょ?
どこにカラダを配置して、どう動かすか……。
校内放送の声の主は僕だったかもしれませんね(笑)
だって、行かせたくない所や、主人公達を誘導する為に赤い人を移動させたんですから。
書いてて半分くらいで後悔しました。
でもまあ、上手く終わって良かったです。
では、またお会い出来る事を願って。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
これからも応援よろしくお願いします。