そこで出会ったのは二見結子。
いつもニコニコしていて、私の話も笑わずに聞いてくれて。
私も結子の話を聞いて、世界を広げた。
おしゃれをする事を覚え、誰に何を言われても、自分の考えを曲げない強さを身に付けて。
でも、私自信の考えがしっかりしていないせいか、ひんぱんにコロコロ変わっていたけど。
そんな結子が、突然私と一緒に行動しなくなり、仕方なく私は別の女の子と遊ぶようになった。
その理由はすぐに分かった。
結子には彼氏ができて、いつもベタベタするのに私が邪魔だったのだ。
そう思ってしまった私は、すごく単純に結子を嫌いになって、そこから話をする事もなくなった。
だけど、結子が広げた世界は残っていて、そこがすごく居心地が良くて。
心のどこかで、私は結子が戻って来るのを待っていたのかもしれない。
だけど、私がいくら待っていても、結子は戻って来る事はなかった。
そんな私達が、同じ高校に行く事を知ったのは、受験日当日。
だけど、会話なんて一度もなかった。
高校に入り、さらに私の世界は広がった。
テストでいつも赤点ばかりの、補習常連の高広。
仲が良いわけじゃないけど、悪くもない。
くだらない事を言い合う友達として、それなりに一緒に行動するようになった。
私にとって都合が良かったのは、結子の彼氏の武司と仲が悪くて、いつも衝突しているから。
喧嘩になっても、いつも高広が勝つし、私まで結子に勝った気がした。
だけど……私は、その時の結子の顔は見る事ができずに、いつも興味がないふりをしているだけ。
どうしてこんな世界になったのだろう。
ここは私が望んだ世界じゃないんだろうなと、小学生の頃を思い出す事も多くなった。
人には人の、それぞれが思い描いた世界を持ってるなんて夢みたいな話、この時にはもう、本気で思っていたわけじゃない。
世界はひとつしかなくて、今、私がいる世界がすべてなんだって。
大きくなるにつれ、それが現実と分かってきた。
そして、高校2年の11月29日の朝。
妙な夢を見た私は、胸の痛みと共に目を覚ました。
「いったぁ……何これ、筋肉痛?」
目が覚めて、起き上がる時にその痛みに気付いた私は、制服に着替える時に胸にあるアザが目に入った。
昨日、どこかで打った記憶もないし、寝ている間に打ったとも考えられないんだけど。
胸が関係しているとすれば……夢での出来事?
私は森の中みたいな所で寝ていて、知らない誰かが私に何かを言っていた。
私は胸から血が出ていて、苦しくて息もできなかったけど……。
その後すぐに、息苦しくて目が覚めた。
「まさかね。だって夢なんだよ? きっとどこかで打ったんだよね」
制服に着替えて、夢の事を気にしつつも、いつものように学校に向かう準備を始める。
あの女の子は誰だったのか……普段なら気にする事もない夢の登場人物。
その中に、クラスメイトの美雪と、後輩で武司の妹のあゆみもいたのが不思議だ。
ふたりとも、そんなに仲が良いわけじゃないのに、私に笑いかけていた。
そして……見た事もない男の子。
夢の中で、私はこの男の子を何て呼んでいたかな?
まだ眠い目をこすりながら、私はカバンを持って部屋を出た。
顔を洗って朝ご飯を食べて、いつもより少し早い時間に家を出て、通学路を歩いていた。
何だか雨が降りそうな空を見ながら、傘を片手に。
そして、路地を抜けた所で、朝っぱらから仲良くふたりで登校している、高広と明日香と顔を合わせた。
「あ、おはよう留美子。どうしたの? なんか機嫌が悪そうだけど」
「おはよ。朝からイチャイチャしてるあんた達を見たからだよ」
「べ、別にイチャイチャしてねぇし! 見ろよ! こんなに間が離れて……」
ムキになって、高広が明日香との距離を手で示しすけど、私にはどうでも良い事だ。
明日香は良い子だし、高広と付き合っていても、私を邪魔者扱いする事はない。
バカな話をしながら、大通りに差しかかった時だった。
突然、ヒュウッという風の音が聞こえて……誰かの声が、私の耳に届いた。
……留美子は幸せになってね。
その瞬間、思い出される夢の中の女の子。
小さく口が動いていたけど……今の言葉が、ピタリとハマる動き。
「今……何か言った?」
辺りを見回して、誰が言ったのかを確認するけれど、それらしい人はいなかった。
「何かって……何も言ってないけど。あ、風の音が何か言ってるように聞こえたんじゃないの?」
そうなのかな?
でも、夢の中の女の子が言っていたような気もするけど……誰もいないよね。
「空耳……かな。だったら良いや。早く学校行こ」
大通りに出て、学校に向かって歩いていると、他校の生徒も通学中で。
その中に、私の名前を呼んだ人がいないかと、チラチラ見てみるけど……それらしい人はいなくて。
「あー、降ってきたな」
高広の声で、我に返った私は空を見上げた。
ポツポツと降り始めた雨が、私の頬に当たって弾ける。
そして、徐々に強くなる雨に、慌てて傘を開いた私が、それを頭上に上げた時……その声は聞こえた。
「うわっ! やっぱり傘を持って来るんだった! 走るぞ滝本!!」
こんな空なのに、傘を持って出なかったバカがいるんだ。
他校の生徒だろうなと、声が聞こえた背後を振り返った私は……傘を落として立ち尽くした。
金髪の生徒と一緒に、今私達が通って来た道に入った男の子。
ほんの少ししか見えなかったけど……その姿は、とても良く似ていたのだ。
傘もカバンもその場に残して、自分が何をしているかも分からずに、私はその男の子を追いかけた。
夢で見た、私に手を差し伸べてくれた男の子。
名前も知らないし、見た事もないはずなのに。
「ちょっと……待ってよ!!」
ただの夢なのに、どうして私はこんなに必死になってるんだろう。
今日じゃなくても、明日でも別に良いはずなのに。
だけど、ずっと待ちわびた人が現れたような気がして、追いかけずにはいられなかった。
しばらく走って、民家の軒下で雨宿りをしているふたりの姿が、前方に見えた。
強くなったり弱くなったりを繰り返す雨。
私に降り注ぐ雨が、少し弱くなった時だった。
「よし、また走るぞ!」
金髪とふたり、再び軒下を飛び出した男の子。
私より足が速いふたりは、どんどん差を広げていく。
これ以上離されると、もう追い付けなくなってしまう。
どうして男の子を追いかけているのか、追い付いて何を話せば良いかも分からないのに。
私は、何も考えずに男の子に向かって叫んだ。
「ま、待ってよ……行かないでよ! 龍平!!」
どうしてその名前を叫んだのか。
走るのを止め、私は雨に打たれて、そこに立っていた。
すると……前方の男の子も立ち止まって、辺りをキョロキョロと見回したのだ。
名前を呼んだとたん、胸が苦しくなって、涙が溢れる。
私はあの男の子がどんな人なのか知らない。
でも、ずっとずっと昔に、大切な約束をしたような気がして、もう一度声を上げた。
「龍平!!」
今度は間違いないと思ったのか、振り返って、ずぶ濡れの私にその顔を向けた。
間違いない……夢の中の男の子だ。
知らないはずなのに名前が頭の中に浮かんで、すがるように呼びかけたけど……。
不思議そうに、私を見ている龍平。
そうだよね。
私が見た夢の話なんだから、龍平が知るはずないよね。
それでも、もっと姿を見ていたい、話したいという想いが強くて。
雨がまた強くなっても、龍平をずっと見ていた。
近付きもせず、離れもせずに、ただ立ったままで。
そんな中、最初に動いたのは……龍平だった。
「夕方4時にここで待ってる! 約束だからな! 絶対守れよ!」
そう言って、大きく手を振って走って行った龍平を、私は涙を流して見送った。
遠い昔に交わした約束。
誰かに言われた、「幸せになってね」という言葉が、この事だったのかなと考えながら、龍平の背中に手を振った。
約束……守るからね。
end
皆様お久しぶりです。
ウェルザードです。
この物語、留美子編はここで終わります。
小野山邸に向かった明日香達はどうなったのか、どうして明日香と遥が美子の棺桶に赤い服を入れていたのか。
それは、最後の作品で語られます。
まあ……書籍化が決まればの話ですけどね(笑)
この作品を書く時に、留美子編ともう一つの話を書こうと決めていました。
つまり、次の作品と第三夜で第二夜の、カラダ探しが終わってからの話が完結すると考えてください。
まだ完結編の半分。
足りないもう半分を公開出来る事を、今から祈っています。
最後の作品が書籍化する(?)頃には、別の事を発表出来るかもしれませんし。
とうとう3/4が終わりましたね。
去年の今頃、カラダ探しの記念すべき一冊目が出て、あっと言う間に一年が経ってしまいました。
本編はもう、別サイトで完結していますが、この設定だとスピンオフなんかがまだまだ作れそうですね。
……なんて考えたりして。
カラダ探しはね、結構頭使うんですよ。
特に今作なんかは、6個×5人の大量のカラダ探しでしょ?
どこにカラダを配置して、どう動かすか……。
校内放送の声の主は僕だったかもしれませんね(笑)
だって、行かせたくない所や、主人公達を誘導する為に赤い人を移動させたんですから。
書いてて半分くらいで後悔しました。
でもまあ、上手く終わって良かったです。
では、またお会い出来る事を願って。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
これからも応援よろしくお願いします。