カラダ探し~第三夜~


そこで出会ったのは二見結子。


いつもニコニコしていて、私の話も笑わずに聞いてくれて。


私も結子の話を聞いて、世界を広げた。


おしゃれをする事を覚え、誰に何を言われても、自分の考えを曲げない強さを身に付けて。


でも、私自信の考えがしっかりしていないせいか、ひんぱんにコロコロ変わっていたけど。


そんな結子が、突然私と一緒に行動しなくなり、仕方なく私は別の女の子と遊ぶようになった。


その理由はすぐに分かった。


結子には彼氏ができて、いつもベタベタするのに私が邪魔だったのだ。


そう思ってしまった私は、すごく単純に結子を嫌いになって、そこから話をする事もなくなった。


だけど、結子が広げた世界は残っていて、そこがすごく居心地が良くて。


心のどこかで、私は結子が戻って来るのを待っていたのかもしれない。


だけど、私がいくら待っていても、結子は戻って来る事はなかった。


そんな私達が、同じ高校に行く事を知ったのは、受験日当日。


だけど、会話なんて一度もなかった。


高校に入り、さらに私の世界は広がった。


テストでいつも赤点ばかりの、補習常連の高広。


仲が良いわけじゃないけど、悪くもない。


くだらない事を言い合う友達として、それなりに一緒に行動するようになった。


私にとって都合が良かったのは、結子の彼氏の武司と仲が悪くて、いつも衝突しているから。


喧嘩になっても、いつも高広が勝つし、私まで結子に勝った気がした。


だけど……私は、その時の結子の顔は見る事ができずに、いつも興味がないふりをしているだけ。


どうしてこんな世界になったのだろう。


ここは私が望んだ世界じゃないんだろうなと、小学生の頃を思い出す事も多くなった。


人には人の、それぞれが思い描いた世界を持ってるなんて夢みたいな話、この時にはもう、本気で思っていたわけじゃない。


世界はひとつしかなくて、今、私がいる世界がすべてなんだって。


大きくなるにつれ、それが現実と分かってきた。










そして、高校2年の11月29日の朝。


妙な夢を見た私は、胸の痛みと共に目を覚ました。


「いったぁ……何これ、筋肉痛?」




目が覚めて、起き上がる時にその痛みに気付いた私は、制服に着替える時に胸にあるアザが目に入った。


昨日、どこかで打った記憶もないし、寝ている間に打ったとも考えられないんだけど。


胸が関係しているとすれば……夢での出来事?


私は森の中みたいな所で寝ていて、知らない誰かが私に何かを言っていた。


私は胸から血が出ていて、苦しくて息もできなかったけど……。


その後すぐに、息苦しくて目が覚めた。


「まさかね。だって夢なんだよ? きっとどこかで打ったんだよね」


制服に着替えて、夢の事を気にしつつも、いつものように学校に向かう準備を始める。


あの女の子は誰だったのか……普段なら気にする事もない夢の登場人物。


その中に、クラスメイトの美雪と、後輩で武司の妹のあゆみもいたのが不思議だ。


ふたりとも、そんなに仲が良いわけじゃないのに、私に笑いかけていた。











そして……見た事もない男の子。












夢の中で、私はこの男の子を何て呼んでいたかな?


まだ眠い目をこすりながら、私はカバンを持って部屋を出た。

顔を洗って朝ご飯を食べて、いつもより少し早い時間に家を出て、通学路を歩いていた。


何だか雨が降りそうな空を見ながら、傘を片手に。


そして、路地を抜けた所で、朝っぱらから仲良くふたりで登校している、高広と明日香と顔を合わせた。


「あ、おはよう留美子。どうしたの? なんか機嫌が悪そうだけど」


「おはよ。朝からイチャイチャしてるあんた達を見たからだよ」


「べ、別にイチャイチャしてねぇし! 見ろよ! こんなに間が離れて……」


ムキになって、高広が明日香との距離を手で示しすけど、私にはどうでも良い事だ。


明日香は良い子だし、高広と付き合っていても、私を邪魔者扱いする事はない。


バカな話をしながら、大通りに差しかかった時だった。









突然、ヒュウッという風の音が聞こえて……誰かの声が、私の耳に届いた。

















……留美子は幸せになってね。


















その瞬間、思い出される夢の中の女の子。


小さく口が動いていたけど……今の言葉が、ピタリとハマる動き。

「今……何か言った?」


辺りを見回して、誰が言ったのかを確認するけれど、それらしい人はいなかった。


「何かって……何も言ってないけど。あ、風の音が何か言ってるように聞こえたんじゃないの?」


そうなのかな?


でも、夢の中の女の子が言っていたような気もするけど……誰もいないよね。


「空耳……かな。だったら良いや。早く学校行こ」


大通りに出て、学校に向かって歩いていると、他校の生徒も通学中で。


その中に、私の名前を呼んだ人がいないかと、チラチラ見てみるけど……それらしい人はいなくて。


「あー、降ってきたな」


高広の声で、我に返った私は空を見上げた。


ポツポツと降り始めた雨が、私の頬に当たって弾ける。


そして、徐々に強くなる雨に、慌てて傘を開いた私が、それを頭上に上げた時……その声は聞こえた。











「うわっ! やっぱり傘を持って来るんだった! 走るぞ滝本!!」













こんな空なのに、傘を持って出なかったバカがいるんだ。


他校の生徒だろうなと、声が聞こえた背後を振り返った私は……傘を落として立ち尽くした。

金髪の生徒と一緒に、今私達が通って来た道に入った男の子。


ほんの少ししか見えなかったけど……その姿は、とても良く似ていたのだ。


傘もカバンもその場に残して、自分が何をしているかも分からずに、私はその男の子を追いかけた。


夢で見た、私に手を差し伸べてくれた男の子。


名前も知らないし、見た事もないはずなのに。


「ちょっと……待ってよ!!」


ただの夢なのに、どうして私はこんなに必死になってるんだろう。


今日じゃなくても、明日でも別に良いはずなのに。


だけど、ずっと待ちわびた人が現れたような気がして、追いかけずにはいられなかった。


しばらく走って、民家の軒下で雨宿りをしているふたりの姿が、前方に見えた。


強くなったり弱くなったりを繰り返す雨。


私に降り注ぐ雨が、少し弱くなった時だった。


「よし、また走るぞ!」


金髪とふたり、再び軒下を飛び出した男の子。


私より足が速いふたりは、どんどん差を広げていく。

これ以上離されると、もう追い付けなくなってしまう。


どうして男の子を追いかけているのか、追い付いて何を話せば良いかも分からないのに。


私は、何も考えずに男の子に向かって叫んだ。













「ま、待ってよ……行かないでよ! 龍平!!」
















どうしてその名前を叫んだのか。


走るのを止め、私は雨に打たれて、そこに立っていた。











すると……前方の男の子も立ち止まって、辺りをキョロキョロと見回したのだ。












名前を呼んだとたん、胸が苦しくなって、涙が溢れる。


私はあの男の子がどんな人なのか知らない。


でも、ずっとずっと昔に、大切な約束をしたような気がして、もう一度声を上げた。













「龍平!!」













今度は間違いないと思ったのか、振り返って、ずぶ濡れの私にその顔を向けた。


間違いない……夢の中の男の子だ。


知らないはずなのに名前が頭の中に浮かんで、すがるように呼びかけたけど……。


不思議そうに、私を見ている龍平。








そうだよね。


私が見た夢の話なんだから、龍平が知るはずないよね。

それでも、もっと姿を見ていたい、話したいという想いが強くて。


雨がまた強くなっても、龍平をずっと見ていた。


近付きもせず、離れもせずに、ただ立ったままで。










そんな中、最初に動いたのは……龍平だった。












「夕方4時にここで待ってる! 約束だからな! 絶対守れよ!」


そう言って、大きく手を振って走って行った龍平を、私は涙を流して見送った。











遠い昔に交わした約束。











誰かに言われた、「幸せになってね」という言葉が、この事だったのかなと考えながら、龍平の背中に手を振った。









約束……守るからね。










end
皆様お久しぶりです。


ウェルザードです。


この物語、留美子編はここで終わります。


小野山邸に向かった明日香達はどうなったのか、どうして明日香と遥が美子の棺桶に赤い服を入れていたのか。


それは、最後の作品で語られます。


まあ……書籍化が決まればの話ですけどね(笑)


この作品を書く時に、留美子編ともう一つの話を書こうと決めていました。


つまり、次の作品と第三夜で第二夜の、カラダ探しが終わってからの話が完結すると考えてください。


まだ完結編の半分。


足りないもう半分を公開出来る事を、今から祈っています。


最後の作品が書籍化する(?)頃には、別の事を発表出来るかもしれませんし。


とうとう3/4が終わりましたね。


去年の今頃、カラダ探しの記念すべき一冊目が出て、あっと言う間に一年が経ってしまいました。


本編はもう、別サイトで完結していますが、この設定だとスピンオフなんかがまだまだ作れそうですね。


……なんて考えたりして。


カラダ探しはね、結構頭使うんですよ。


特に今作なんかは、6個×5人の大量のカラダ探しでしょ?


どこにカラダを配置して、どう動かすか……。


校内放送の声の主は僕だったかもしれませんね(笑)


だって、行かせたくない所や、主人公達を誘導する為に赤い人を移動させたんですから。


書いてて半分くらいで後悔しました。


でもまあ、上手く終わって良かったです。


では、またお会い出来る事を願って。


ここまで読んでくださってありがとうございました。


これからも応援よろしくお願いします。


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