放課後の屋上。
去年の秋くらいから此処に来るようになった。
それと同じ時期くらいだったか
伊東岳君に出会った。
伊東君は屋上で1人読書をしていた。
癖ッ毛な黒髪と
少しだけ着崩された制服。
真っ白な肌に大きな瞳
顔だけみれば女の子のような顔つきの彼は
蓮同様この学校の王子様、というやつだろう。
最も、伊東君は蓮とは違い女が大嫌いなんだとか。
「藤岡さんは別。」
らしいけど。
「………今日は遅かったんだね?」
決して本から目を外さず私に話しかけてくる。
「うん。友達の話に付き合わされてた。」
そう言うと伊東君の眉がピクッと動いた。
「また如月蓮のことが好きな女?」
「…うん。そうみたい。」
「ハァ…よく相手にしてられるね。」
「…仕方ないよ。蓮はモテるから…
あ、伊東君もか。」
「僕は如月蓮とは違うよ」
「フフ、知ってるよ。」
伊東君はパタン、と本を閉じると立ち上がった。
「もう、いいの?」
「うん。楽しみは後にとっておくタイプなんだ。」
「そっか。」
なにも言わずに家まで送ってくれる伊東君って本当に紳士だと思う。
あ、毎日授業サボって立入禁止の屋上で読書している人は紳士じゃないか。
「今失礼なこと考えてたでしょ。」
「別に!!」
こんな風に人の心を読み取ってしまうから伊東君って本当に不思議だ。
「……送ってくれてありがとう。」
「別に。じゃあまた明日。」
「うん、またね。」
また、と小さな約束をして私たちは毎日別れる。
「ただいま。」
特にこれといったことのない私の1日はこれで終わる。
明日もこの日常、のはずだったんだけど。