薄暗い鋼の通路を、風のような速度で駆け抜ける白い影が一つ──と、少し離れて黒い影が三つ。
 四人を阻むような形で脇道から唐突に飛び出して来た二つの影があったが、大きく跳躍した白い影とすれ違った直後、それは音も無くバラバラに解体され、崩れ去っていった。
 時間差でその場を通り過ぎた黒い影の一つが、かつてヒトの頭部だったそれを踏み抜く。
 しかし、頭蓋を踏み砕いた本人を含め、その行為を気にした者は居ない。
 彼等の目的はただ一つ。
 目標物と、そこに至る道を妨害するもの以外に気を取られている暇など、どこにも無いのだ。
 ──否。
 彼等はそもそも、敵の生死を気にするようには出来てはいない。
 敵は撃破し、排除するもの。
 目標は確保し、持ち帰るもの。
 命令は絶対で、背いてはならぬもの。
 それ以外には、本当に何も無いのだ。
 自身が壊れる事で目標を確保できるならば、彼等は喜んで犠牲となるだろう──無論、彼等に喜ぶという概念があればの話だが。
 一体どれだけの間、四人は走り続けただろうか。
 九人の敵を倒し、八十基の防衛機構を破壊し、ついに四人は目的地へと到着したのだった。
 そして今、巨大な鋼の箱が鎮座するエリアで、巨大な火器を構えた八十一基目の自律防衛兵器が瓦解する。
 敵から奪った巨大な武器を投げ捨て、白い影はようやく動きを止めた。
 そう、敵の排除は白い影の仕事であり、黒い影達には別の仕事が与えられていた。
 改めて見ると、白い影は非常に小柄で華奢な少女である。
 生地の薄い白のワンピースも、病的なまでに白い肌も、ここへ至るまでの活動ですっかり汚れきってしまっている。
 唯一汚れが目立たない場所があるとすれば、そこは──
「スキャン完了。目標を確保した、回収を頼む」
「…………」
「了解。周囲を哨戒し、残存する敵を発見次第掃討する」
 白い少女が身じろぎ一つせずに立ち尽くす中、黒衣の男達は虚空に向かって何者かと会話をしていた。
 どうやら、通信機の類が内蔵されているらしい。
 四人全員が身につけている、汚れの目立たない深く暗い青色の防毒マスクには。