しかしこいつ、脚力に負けず劣らず、腕力もとんでもねーわ。
 本当に人間なのだろうか、と疑いたくなる。
「……時間? お急ぎなら俺達に構わず、お先にどうぞ」
「馬鹿を言わないでください、私は貴方達に用があるんです!」
 怒られてしまった。
 律儀な奴だなあ。
 まあ、どう考えても俺達に用があるってのは間違い無さそうではあるが。
「いいから、私の質問に答えてください。大人しく答えれば、危害は加えません」
「それって、強盗とかの要求とあんまり大差無──いてっ!?」
 危害を加えられた。
 と言うか、拳が飛んできた。
 この腕力に違わぬ確かな威力。
 ヒットした頭がクラクラする……
「好きな子にこそ意地悪したくなるって言うけど、君もそのタイプ──んがっ!?」
「…………」
 再び無言のまま危害が加えられた。
 しかもさっきより威力が増していた。
 このチビ、本当に容赦が無い。
「ちょっと、止めてよ!」
 再び俺の頭に拳が打ち下ろされたのを見て、由加が我に返り、止めに入ってくれた。
 彼女が逃げる隙を作ったつもりだったが、嬉しくもある。
 複雑な気分だ。
「由加〜、獰猛な怪獣から俺を助けてく──うお、危ねえっ!?」
 三度目の危害が加えられそうになった。
 今度は本気のフルスイングだった。
 耳元ですげぇ風切り音が聞こえたぞ……身をよじってなかったら、ヤバかったかも。
 そろそろ真面目にやらないと、俺の頭が潰れたトマトになりかねなかった。
「大樹も巫山戯てないで……何? この子、危なくないの?」
「すっげー危いけど、従えば危害を加えないってのは嘘じゃないと思う」
 素直に答えてみた。
 少なくとも俺が余計な事を言わなきゃ、本当に危害を加えたりはしないだろう。
 少女の突き刺すような視線は、あえて無視。
“すっげー危い”と思うのは本音だし。
「本当にちゃんと質問に答えたら、もう追って来ない?」
「約束します。いえ、目的さえ果たしたら、二度と貴方達の前に姿を見せないと誓いましょう」
 由加がちらりと俺の方を見る。
 嘘は無さそうだ、と俺は首肯で答えた。
「分かった、じゃあまずは大樹を放してあげて。そんなじゃ、誠意を持って答えてあげられないじゃない」