私は男運が悪いのだろうか。
 大樹といい、リピテルといい。
「失礼な、折角良い話を教えてあげようと……」
「私が全て悪かったです! この通り海より深く反省しておりますから、どうか拝聴させてくださいぃ!」
「やれやれ、仕方が無いなあ」
「ありがとうございますぅ……」
 勢い余って、もう一度土下座しそうになる。
 何で私はこんなにも卑屈になっているのだろう。
 訳が分からなかった。
 と言うか、心を読むのは本当に勘弁して欲しかった。
「彼からの伝言は一言だけ。“図書館を使った事があるか?”……以上」
「だったそれだけ? ……あっ!?」
 声真似どころか、大樹と全く同じ声色、同じイントネーションで司書さん様が伝言を口にするが、私はそんな声帯模写の芸には全く驚かなかった。
 つまらないなと呟き、彼は舌打ちをする。
 無論、私が驚いたのは伝言の内容の方である。
 このままだと、本は司書さん様に処分されてしまう。
 しかしここは図書館であり、私は言わば客。
 そして司書さん様は一応この図書館の職員に該当するはず。
 なら、取るべき選択肢は決して多くない。
 あの壊れた本を捨てさせない、それは私の役目。
 やっぱり蒼井大樹は最高の彼氏であった。
 きっと世界の真実を知らされた事で、ドールの目的を聞かされた事で、そして本の処遇を聞いた事で、私と同じようにパニックに陥り、茫然自失となっただろうに……まさか、その場でこんな裏技を思い付くなんて!
 尊敬を通り越して、狂ってるとすら思える。
 それでも彼が本気で私と本を気にしていてくれた事が、とても嬉しく思えた。
 目頭が熱く感じるのは、きっと気のせいではないはずだ。
「そっかぁ……大樹もちゃんと考えてくれてたんだ」
「時間稼ぎでしかないけど、悪い手ではないねえ」
 いま私がやらなきゃ、私は多くの“声”が囁くまま亡霊のように大樹の命を狙い続けていただろう。
 それは個の死と同義だ。
 けど、“加賀由加”はこんな所で再び彼に救われてしまった。
 幼い頃に薄暗い裏路地へ迷い込んだあの時のように、この薄暗い迷路のような図書館で。