社長室で、私はあいつに言った通り自分の気持ちを伝えた。
「……すいません、やっぱりその方とは会えません」
「それは困ったなー、もう話はしちゃってるんだよね。君だけの問題じゃない、うちの所属してる子達にも影響があることなんだよ?」
「すいません」
「君から直接謝りに行ってくれる?」
「はい」
私は予定通り賀川さんと会う予定だった、とある高級ホテルへ向かった。
一人でこうやって外を出歩くなんて本当に久しぶり。
ばれないように帽子を深く被り、フロントを抜け待ち合わせの部屋へ。
部屋の前のインターホンを押す。
すると中から、優しそうな男の人が出てくる。
まるでアイドルの女の子たちを食い物にしているようには見えない。
彼はにこっと微笑むと、部屋の中へ招き入れてくれた。
どうぞ、と導かれるように備え付けのソファーへ座った。
「こんにちは、初めまして賀川です」
彼は私の前にあるソファーに座ると改めて自己紹介する。
私はわざわざ来てもらったことに申し訳なく感じながら、早々に話を切り出した。
「あの、申し訳ないんですけど、今回の話はなかったことにして欲しいんですけど」
「いきなり、どうして?」
「あの、正直に言うと怖くなちゃって」
「そっか、初めてだったの?」
「は、はい」
「それじゃ、しょうがないね」
「すいません」
頭を下げると、思いがけない言葉が降ってきた。
「はは、それで帰れる思った?」
聞き間違えかと頭を上げると、そこにはもうさっきの優しそうな彼はいなかった。
冷たく微笑み、私を絶望へ突き落す。
「今日はパーティーだっていうのに、主役が帰っちゃったら台無しでしょ?」
「パーティ……?」
「何、純情ぶちゃってんの?本当はこういうことしてるんでしょ?」
「こういうことって、私、本当に初めてで……」
私の話なんてまともに聞いてもらえない。
「じゃなきゃここまで流行らないもんね?下火になってきて焦ってるんでしょ」
じりじりと迫る身の危険に、携帯で助けを呼ぶ。
奴が来てくれる保証はない、だけど藤川さんではなく私は無意識に奴に、桐生にかけていた。