今日は電車で来てたんだね。
声かけられなくて残念。


二つ折りにされて封入してある手紙。

文字は毎回、キーボードで打ち込まれた文字でいつも2~3行の短文だった。

事務所に届けられたその手紙を最初に見つけたのはマネージャーの藤川さんだった。

慣れもあって最初見た時程の不気味さはないが、こうも続くとやっぱり気味が悪い。

だってこれで、何通目になるだろう。

もはや、輪ゴム一本では束ねられない枚数になっていた。


「こわ、こいつ、いつ見てたんだろう」

「明日からやっぱり僕が車で迎えに行くよ」

「いいよ、電車の方が確実だし」


自分にはよほど芸能人というオーラがないのか、帽子とマスクで少し下向きに歩けば、ほとんど街中でバレたことがないのだ。


「いや、こんな悪質な悪戯も続いてるしさ。危ないよ」


手紙が送られてくる度に、私を説得する藤川さん。

その後ろから間延びした声で社長が入ってきた。


「また来たのー?怖いねぇ」

「社長、おはようございます」

「おはようございます」


慌てて挨拶を交わす私と藤川さん。


「おはよ、藤川からそのストーカーの話しは聞いてたよ。千遥ちゃん、大丈夫?」

「はい、お気遣いありがとうございます」

「ストーカーっていうのはエスカレートしたら怖いからさ、ボディガードを雇ったんだ」


ボディガード?


「え?」


あまりにも唐突過ぎて、私は思わず聞き返してしまった。


「ありがとうございます社長、良かったな千遥!」


そう言って喜ぶ藤川さんは、私の肩にぽんと手を乗せた。

私は慌てて社長に申し出る。


「ボ、ボディガード!?そんなのいりません」

「こら千遥、社長に失礼だろ」

「だって……」

「まぁまぁ、物騒な世の中だしさ。マネージャーが1人増えたとでも思えばいいじゃない。早速、今日から呼んであるからそろそろ来るんじゃないかな」