「まぁ、女優は向いてないってことが分かって良かったんじゃないですか?」
「……まだ、分からないよ」
「これで少しは、あの自信過剰な性格も直るといいんですけど」
「自信過剰か……、あの子の芸能界に入ってきた志望動機を教えてあげようか」
うわ、全く興味ない。
とは言えず、煙草に火をつけながら適当に返す。
「芸能界に入ろうとする奴なんて、どうせ皆から可愛いってちやほやされたいとかじゃないんですか?」
「まぁそういう子もいるだろうけど。彼女はね、自分に自信を持ちたい、最大限自分が努力できる場が欲しいって言って芸能界に入ってきたんだ」
「そんなのわざわざ、芸能界じゃなくてもいいのに」
「そう思うだろ?この世界は不特定多数の人間に自分を見られて、思いのまま評価される。彼女がうちの主催のオーディションを受けた時はまだ中学生だった。だけど、彼女は中学生にして自らの価値を、芸能界という極めてシビアな世界で見出したいと望んだんだ」
正直、こんな話は興味ないし、しかも長ったらしい話を聞くのは苦手だ。
けど俺には知っていて欲しいことなのか藤川さんが真剣に話すもんだから、ちゃんと聞くしかない。
「芸能界は運や実力だけじゃどうにもならない、そこに入るというのは大きな賭けのようなもの。でも彼女はそこでここまで上り詰めた。その根本にあるのがどれだけ賞賛を与えられようが覆せない劣等感なんだ。どんなに権威ある人が彼女を褒めちぎろうが、数多いるファンにちやほやされようが、たった一言の批判や悪口で自信をなくしてしまう」
「……めんどくさ」
ぽろりと出た本音に、藤川さんは同調する訳でも否定する訳でもなく続ける。
「あの子は普段強気に振る舞っているけど、ああ見えて劣等感の塊みたいな子なんだ。繊細な子なんだよ。あまり彼女を傷つけるのは程々にしてくれ」
なるほど、今の長ったらしい話は全てここに繋がる訳ね。
要はあいつをあまりいじめるなってことだろ。
「藤川さんは、よくあいつのこと知ってるんですね?」
「まぁ、あの子とは長い付き合いになるから」
「よく、あいつのおもりやってられますよ」
「いやー、難しい子だから一筋縄じゃいかないけど、手がかかる分可愛いよ」
ほら猫と一緒さ、と言って笑った。
しかし、うちのちょっと気まぐれな可愛いロシアンブルーを思い起こすも、全くあいつとは一致しない。
「そうか、桐生君は子どもが苦手だって言ってたね。彼女はストレートに感情をぶつけてくるところあるからなー」
「はい、めんどくさいです」
「だから、早くこの仕事終わらせたいんだ?」
「ま、それもありますけど。要はぬるいんですよ。俺にはこういうの性に合わないっていうか。正直、さっさと終わらせて元の現場に戻りたいんです」