体がガタガタ震えた。
そのまま男に連れられるような形で路地に出る。

「さっきみたいに、ここで名前呼ばれたくないでしょ?」

そう脅され、言うとおり男の後についていく。
ここはラブホ街だ、こいつがどこに行くかなんて察しがつく。

下を向いていたら、突然男の足が止まった。
すると目の前には、桐生京介。
心の中では、遅いんだよバカと毒づきながら涙が溢れた。

「その子に何の用?」

「な」

うろたえた男は私の手を離すと後ずさりした。
私はその隙に、桐生の背後へ回る。

「白い手紙を出しているのはお前だな?」

「くそっ」

桐生がそう言うと、男は後ろを振り返って足早に逃げていってしまった。


「ちょっと!捕まえなくていいの?」

慌てて桐生の袖を引っ張ると、奴は冷静に言った。

「もうお前、一人にできないだろ?」

「う、そうですね」

ごもっともでございます。

「ま、でもこれで顔が割れたからな、もうすぐ捕まえられんだろ」

私はすごく怖い目に遭ったというのに、奴の顔はどこか晴れやかというか。
最悪、貞操の危機さえあったというのに、どうしてこいつはこうも呑気なの?
まぁ私の貞操なんざどうなろうが知ったこっちゃないんだろうけどさ。

普段どんな仕事をしているのか知らないけど、もっと真剣に取り組んでください。
車内で運転している彼の姿を険しい目で見つめる。

「……そんなに降ろして欲しいか」

「いえ、家までお願いします」

デジャブのようなやり取り。
だけど車の中では彼が主導権を握っていることから、素直に礼儀正しく前を向く。