すると、聞こえてきた若い女の人達の声。
「え、あれちょっと小泉千遥じゃない?」
「あ、本当だ似てる」
バレたの初めてだ。
ちょっと慌てて外用帽子を深く被る。
しかし彼女達の視線は止まない。
「あれ?でもテレビで見るより、あんま可愛くないかも」
「えーそう?変わんないよ、てか元々あの子ってすごい可愛いって訳じゃないじゃん?」
容赦ない言葉。
聞こえていないと思ってるんだろうか。
静かに傷心していると、隣にいた奴が吹き出した。
「ぷ」
イラっとして奴を睨む。
「何笑ってんの?」
すると、奴は私の腕を掴んで彼女達に聞こえるような声で言った。
「アサミ帰るぞ」
アサミ?あえて、奴がそう呼んだことに気が付くと、私はわざと彼の腕を払って甘ったるい声を出した。
「ケイちゃん、手はこっち」
そう言って奴の手を繋ぐ。
私がノって来たことにびっくりしたのかギョっとした様子の奴。
「あれ、小泉千遥じゃないじゃん」
「ま、こんなとこにいる訳ないよねー」
後ろから聞こえてきた彼女達の声にほっとして、お互い乱暴に手を離す。
「何本当のこと言われて怒ってんだよ」
「うるさい!」
地下の駐車場へ向かう途中、店を出てすぐの路道で思わず声を荒げてしまった。周囲の目が集まる。
「馬鹿、声でけぇよ」
「え?あれ、小泉千遥?」
「うそー」
周りが私を見て立ち止まり始めた。
奴は、珍しく少し焦った様子。車にすぐ逃げ込めればいいけど、地下の駐車場まで少し歩かなきゃならない。しかも駐車場までの道は人がうじゃうじゃ、気付かれて捕まったら逃げ場がない。
巻くぞ
耳元に小さな声で言われ、私は静かに頷いた。腕をぐいっと引っ張られ、少し早足で奴の歩調に合わせて歩く。
「え?あれ彼氏?」
「マジで!?やばくない?」
背後から聞こえてくる数人の声。
ざわついてるのが分かる。
怖くて後ろが振り向けない。
奴に連れられるまま、もつれそうになる足を懸命に動かす。
「……次の路地右に入るからな」
と、入り組んだ道を入って辿り着いたのはなんとラブホ街。
こいつは正気なのかと目をパチクリ。
「ま、ま、まさか、入らないよね?」
「最悪入るかもな」
ラブホとラブホの間の、人一人通るのでやっと位の細い路地に入る。
そこで奴は私と向き合い、体を覆うように迫ってきた。
所謂今流行りの壁ドンって奴。
体が近すぎて、すぐ上に奴の顔があって、すかさず下を向く。
「ちょ、ちょっと近いってば!」
思いっきり動揺した私は奴の腹に手をあてこの最低限の距離を保つ。
「黙ってろ」
「いやこんなん、むり!」
「恥ずかしがってる場合じゃねぇだろ」
「そうだけど……っ」
軽くパニック状態の私は奴を引っぺがそうとするも、大人の男の力には適わず。
すっぽり包まれてしまう。