撮影場所は色とりどりの紫陽花に囲まれた長い縁側で行われた。
頭上にはちりんちりんと風鈴。それと、ところどころ白い模様の入った赤い金魚が昔ながらの丸い水槽に入れられて、縁側に置かれていた。

最初はその縁側に座って何枚か撮った。
団扇を持ったものから、ちょっと上を見上げて微笑んだもの。

色々なポーズで撮ったあと、松崎さんは新しい指示を出した。

「じゃ、千遥ちゃんそこの縁側に外側を向いて寝てくれる?」

「はい」

言われた通りにすると、横になった私の体の上や周りに紫陽花の花や花びらを散らせていく。

「よし、はい、目線こっちちょうだい。両足揃えずにちょっとずらして、手はそうだなちょっと片手だけ口元に持ってってみよう」

なるほど、やっと撮影の趣旨が分かって来た。わざとはだけさせてってこういうことね。
これだったら、顔の赤みと潤んだ目を逆に利用して良いものが撮れる。
やっと理解した私は、悩ましげに眉間を寄せて困り顔を作ると人差し指を唇につけてカメラを見つめた。

「おぉっ」

周りから漏れた感嘆の声。私は趣旨が分かればこっちのもんだとばかりに、自分の中のエロいイメージを体現していく。

「いいよ、千遥ちゃん、すごく色っぽい。高校生には見えないよ」

私の足元から見下ろすような形でパシャパシャと、すごい勢いでシャッターが切られていく。

「はい次は目線を下に向けて、伏せ目がちに。唇は少し開けて、控えめにあひる口作って。今度は右手を頭の方に、左手は自然に下ろして」

一応私は清純派アイドルと名を打っている。そのためか、事務所から止めが入るんじゃないかと毎回カメラマンさんの指示はたとえ水着撮影でも遠慮がちなものであった。
エロというよりあくまで健康的にという感じだった。

だったら自分からちょっと脱皮してやろうじゃない。
ここまで色々な人に手間かけて撮ってもらってるんだ、エロがテーマだっていうならとことんやってやろうじゃない。

松崎さんが絶えずシャッターを切っていく中、私は自ら片側の肩をはだけさせ、胸元の谷間が見えるようアピールした。
そして挑発的な流し目でカメラへ微笑する。

一瞬びっくりした顔をしたが、彼はすぐににんまりと笑った。

「ははは、いいねー」

徐々に露出は増していき最後は帯紐を解いて、両肩と両足を大胆にはだけさせて撮影した。
今回はとことんエロチックにということで、メイクで偽のキスマークまで首元につくって。
それは松崎さんの計らいだった。

監督曰く今回のテーマは「小泉千遥、この夏少し大人になりました」だったらしい。
あの泣いたあとの真っ赤に充血した目と、赤くなった頬をカモフラージュするために突如変更した企画だったが周囲の評判はすこぶるいい。
特に雑誌の担当者にはすごく喜んでもらって、君は青年誌の趣旨をよく分かっていると褒められた位だった。