ちょうど彼を見ていた私と振り返った彼の視線は綺麗に交わり、バッチリと目があってしまった。
とは言っても彼の瞳は分厚いレンズと前髪に隠されてるから、あんまり見えないんだけど…。
でも見ていたことが彼にバレ、なんだかバツが悪くなった私は、ふいっと目をそらした。
でもその行動が逆に不自然だと気づき、なんだか頬が熱くなって来た。
な、なんだこれ…。
もう一度彼を見た時には、彼はもうドアの方に向けて歩きだしてしまっていた。
なんで振り向いたんだろう…。
それから何日か経ち、みんなが転校生に興味をなくし始めたが、私は何故か彼のことが気になって気になってしょうがない。
彼は謎だ。
二日に一度くらい学校を4時間目で早退したり、5時間目から来たりする。
先生曰く、体が弱いらしいけど…
体育の時間も普通に参加してるし、病弱って感じではない気がする。
まぁ、見た目では分からないものなのかも知れないけど。
そんな風に転校生の中村くんを観察しながら日々を過ごしていると、いつの間にか物凄く楽しみにしていたCielのコンサートの日が翌日に迫っていた。
「蘭、はい!」
そう言って紗千香がチケットを渡してくれる。
私はそれを恭(うやうや)しく受け取り、それから両手を伸ばし光に当てた。
「これがチケットかぁ…。」
やっと、やっとリクに会える。
「蘭、これ絶対なくしちゃダメだよ!なくしたら会場入れないからね!」
「わ、わかった。なくさない。」
内心ヒヤヒヤしながら、チケットを大事に鞄にしまった。
「じゃあまた明日ね!3時に会場がある駅の改札で!」
「はーい!」
そう言って、紗千香と別れ、家路に着いた。
めんどくさい。
この世界に存在する全てのものがめんどくさい。
そのくせ何の意味もなくて、俺をイライラさせる。
一生こんな世界で生きて行かなければいけないとしたら
俺はいつか、この世界を囲む高い高い塀を蹴り飛ばして
この狭くて広い世界からおさらばしてやる。
「おいリク!お前やる気あんのか!」
同じグループのシュウがそう言って俺の肩をどついた。
その弾みで体が大きく傾き、大きな音をたてて近くにあったテーブルに突っ込んだ。