「おー蘭ちゃん!いらっしゃい!」
商店街の一角に建つ、古びた八百屋『亀田』
その店先に並んだ野菜を眺めていると、元気な声が飛んで来た。
「おじさんこんにちは!今日は何が安い?」
店の中からでて来たのは、この店の店主惣蔵さん。私が小さい頃から、よく知っている馴染みのおじさんだ。
「今日はなー、これとこれかな?」
そう言って鮮やかな色をした野菜を幾つか持ち上げる。
「じゃあそれください!」
「はいよ!あ、そうだ。これも入れとくな!」
惣蔵さんはそう言って真っ赤なトマトを持ち上げてニカッと笑った。
「わーいつもありがとう!」
「いいっていいって、いつも頑張ってる蘭ちゃんにこれくらいしかしてやれないからさ。」
「凄く助かります!トマトは弟たちの大好物なんです。」
そう言って笑う私に、少し切なそうな顔を向けるおじさんに私は気づかなかった。
八百屋を出て二つめの角を曲がり、しばらく歩くと今にも傾きそうなおんぼろアパートがある。
その二階の一番奥の部屋が私の家だ。
「ただいまー!」
そう言いながら、キーッという耳障りな音ともにドアを開ける。
「姉ちゃんおかえりー!」
「おかえり!」
そして返ってきた二つの声。
「悠斗、啓斗ただいま!」
その声に顔を出す二人。
そっくりで、よく見ないとどっちがどっちか分からない、そんな二人は私の双子の弟。
中学三年生の二人は我が弟ながら、なかなかのイケメンだ。
悲しいけど私とは全然似てない…。
「姉ちゃん、今日飯なにー?」
「今日は野菜炒めと貰い物のサバだよー。」
「野菜炒めって言ってもあれ、ほとんどもやしじゃん。」
そう言って憎まれ口を叩くのは双子の弟の方の啓斗。
「だってもやし安いからさ〜。
あ、あとトマト!」
「うお、マジで!トマトあんの!」
そう言って嬉しそうに顔を歪ませるのは、双子の兄の悠斗。
「そうそう!八百屋のおじさんがね、おまけしてくれたの!」
トマトは結構高いから、お得な日しか買えないのだ。
うちは見ての通り貧乏で、家賃をこれ以上削れないため生活費でギリギリまで節約するしかないのだ。
「お前今日何個?」
「俺?今日は…三個。すくね。」
「だっせ、俺五個〜。」
「うわ、うぜっ。まー昨日は俺のが多かったし。」
「まー負け犬は黙れって。」
この二人が何の話をしてるかって?
「は?ラブレターごときで偉そうにすんな。」
そう。ラブレターの数らしい…。
一日五個とかありえないだろ。私なんて今まで生きてきて一回ももらったことないって言うのに…。
まーこんだけ顔が整ってたらモテるわなーそりゃあ。
芸能人顔負けの美貌と、中3にして180㎝近い高身長にモデルのような長い手足。
こんな二人を女の子達が放っておくわけがない。
そして、こんな二人の姉の私に誰も近寄って来るはずがない!
…と、自分では思うようにしている。
だってあまりにもモテないから…。
まー本当は私にモテる要素がないんだけど。とほほ…。