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気がついた俺は何故か立ち上がっていて。




自分のしたことを理解するまでに、少し時間がかかった。



鈍く痛む右手と、
俺のすぐ下に横たわる母。


聞こえるのは、母さんのすすり泣く声と呻き声。


フラフラと後ずさり、俺はそのまま家を飛び出した。


家を出て、呼吸が止まりそうになるほど、走って走って走って。

気がついた頃には外は暗く、静かになっていた。



名前も分からない小さな公園に入って、ベンチに腰掛ける。



俺は、いちばんしてはいけないことをしてしまった。


だって、

あんなこと言われるなんて思っても居なくて。




汗が染み込んだ制服のシャツが、体に張り付いて気持ちが悪い。



まだ残っているあの感触。


右手が痛い。



どうしようもないじゃないか。

いちばん安心を求めていた人にまであんなことを言われて、

俺は誰にすがればいいんだよ。



「(違う……………………)」




そんなこと、どうだっていい。


俺は…

母さんを殴ったんだ。


この手で。


この目を最初に綺麗だと言ってくれたのは、母さんだったのに____


「う…………あぁぁぁぁぁっ」


涙が溢れて止まらない。


この汚い右手を今すぐ切り落としたい。

こんな自分、誰かに殴られて死んでしまえばいい。

こんな目、潰れてしまえばいい。



「うぁあぁあ……!」



痛くなるほど、手を握りしめて、俺はずっと泣いた。


ずっとずっと____



夜の三時頃、やっと俺は家に向かって歩き出した。

涙で汚れてぐしゃぐしゃの顔のまま。


帰り道はいつも以上に静かに感じた。

もしかして、世界に自分一人なのかもしれないという錯覚を起こした。
その方が良かったのかもしれない。




家に着くと、父さんが何も言わずに家へ入れてくれた。


母さんはそこには居なくて、俺は促されるまま自分の部屋へ行った俺は、そのままベットに倒れこんだ。