俺はぎゅっとカバンを握り締めると、理由もないまま、家へと急いだ。


自然と足が早まる。


早く帰って、家のドアを開けたとき、

いつも通り母さんが笑ってくれる。

きっとそうだ。


安心したい。
ただそれだけ。



「…っ」


家へ着くと、乱暴にドアを開けてリビングに入った。


後ろでドアの締まる音がする。



リビングには、一瞬誰も居ないように見えた。

だけど、それは俺の見間違いで、よく見ると部屋の隅に母さんが座っている。


様子がおかしいのはすぐに理解できた。


「かあ…さん…?」


俺が呼びかけても反応しない。


「おい、母さん…!」


母さんに近づいて、肩を揺さぶった。

やっと気付いたのか、母がゆっくりと後ろを振り向く。