きっとこれは、あたしが望んでいた状況。





顔をあげれば、

すぐそこに彼の顔があるの。





なのに、




これ以上近づいたら



心臓の音が聞こえてしまいそうで、




あたしの心の中がバレてしまいそうで、





あたしはとっさに身体を離した。





「……………自販機行ってくる」




やだ、これ以上ここに居たくない。



真っ赤な顔が、バレてしまう。



こんなの、いつものあたしじゃない。





「今?付いて行こうか?」



「いい、大丈夫」




あたしは早足で教室を出ると、そのまま歩みを止めずに自販機まで向かった。




こんなあからさまにしてたら、


きっとすぐ気付かれてしまう。



だって高崎は、どんなちっちゃいことでも
すぐ気付いてくれるから。




あたしは廊下の隅にヘタリこむと、大きく息を吐いた。



…ちゃんと、しなきゃ。




いつもみたいに、冷静でいなきゃ。


このままじゃおかしくなってしまう。




「はー…もう、やだ......」




誰もいない廊下に、こぼれた独り言。




あたしは体育座りのまま、頭を抱えた。




しっかりしろ、自分。



いつも通りでいればいい話だ。




しばらく時間が経った後、自販機の横にある鏡で自分の姿を確認してから教室に戻った。