もし日向くんが私にヤキモチを焼いてくれたら、



………考えただけでもにやけてしまいそう。




「アクション起こすのよ、小夏」




華は念を押すように、一言付け加えた。



ドキドキ大作戦…



どうか成功してくれますように…!









***







「小夏、帰るぞ」






夕日が差し込む窓際の席に座っていた私に、教室の扉の前から日向くんはそう言った。




日向の顔を見た途端、昼に華が言っていた言葉を思い出す。



いつもとは違う気持ちの私は、急いでカバンを手に取ると、日向くんの元へと走った。




いつもの時間。



いつもの帰り道。




威勢のいい野球部の声を背後に、私と日向くんは並んでオレンジの道を歩いた。




日向くんは毎日、私を家まで送ってくれる。




私の家は、学校から歩いて30分程の所にある。


それまでが、私達が二人っきりでいられる時間だ。




他愛もない話をしていれば、すぐ私の家が見えてくる。



30分なんて、一瞬だ。


悲しいくらいにすぐ終わってしまう。




あと家まで、数十メートルという所で、私は足を止めた。




「どうした?」



「……寄り道、しよ」



「…いいけど、どうした?」




「別に」と、私は言って、日向くんの手を引っ張る。



地面に映る二つの影が、オレンジ色とは対照的な黒色で揺れる。



しばらく歩いて、近くの公園に入ると、私達はベンチに腰掛けた。



夏が終わりを告げたような、涼しい風が私の頬を撫でる。



「めずらしいな、小夏がそんなこと言うなんて」



「…たまには…って、思って」



嫌だった?と聞くと、彼は優しく笑った。



「小夏、髪に虫ついてる」



「へ!!??嘘、ちょ、やだ!はやくとって」



急に虫がついてる、なんて言われた私はバタバタと手を動かして、虫を払おうとする。


横にいる日向くんは、楽しそうに笑った。



「嘘。ついてねーよ」



え、



「なな、なんで、そんな嘘つくの馬鹿!」



両サイドにある空を掴んだ自分の手を見ると、恥ずかしさが込み上げた。



「ごめん。」



彼はそう笑って、私の頭を撫でる。




ダメだ……


こんな状況でもドキドキしてしまう。



「小夏、髪…伸びたな」



「そうだね、だいぶ長くなった」




私の髪の毛から一房摘まんでいった日向が、私の髪をすく。



「初めて会った時は、もっと短かったし前髪もあったもんね」




中学生の時の話をすると、いつだって心がポカポカする。



「あぁ、そうだな。……前髪切らねえの?」



日向くんは悪戯っぽく笑った。



私が、前髪短いのが似合わないことを知ってていっているのだろうか。



「…切らない」



むぅ、と頬を膨ませて答えると、日向くんはつまんなさそうにそっぽを向いた。




「前髪短いほうが俺は好きだけど」



「〜〜〜」



すぐ真っ赤になってしまうのは、出会ったときから変わらない。