その言葉に、俊夫が体の向きをかえた。こちらを振り向いた顔には、怯えと恐れと様々な感情が浮かんでいる。
──今の俊夫には、冷静な判断など出来そうにない。
「俊夫、大丈夫か?」
気遣うように声をかけた公平も、動揺している。 「早くここを出ないと、ヤバいかもしれないわ」
全く動じる様子を見せない響子が僕に囁いた。
「みんな怯えて、怖がっている。些細な事で暴走するかも…」
それは僕も思った。こんなとこで、皆がバラバラになったら終わりだ。
俊夫が唇を噛んで、憤然と歩きだした。
それにならい、ギクシャクと公平が歩きだす。
僕と響子は顔を見合わせた。俊夫の後ろ姿が何だか勇ましい。案外大丈夫なのだろうか。
しかし甘かった。
俊夫は段々早足になり、そして──走り出した。 「待て!俊夫!」
僕の制止の声も、俊夫には届かない。
続いて公平も走り出す。走るのが速い公平は、俊夫との差を段々縮めていく。それが、俊夫にとっては恐怖となる。
「待てったら!」
僕は声を荒げた。しかし、俊夫と公平、そして僕との差は開いてく。
「もう止まらない。あたし達も行きましょう」