「誰もいないって思わなかった?」
「…………」
一瞬の沈黙が降りた。今まで全員、そのことに気付かなかったらしい。僕もだけれど。
助けを求めるような視線を思わず交わしあったのは、何か途轍(トテツ)もないことが起こりそうだという予感からだ。
「確かに、あれだけ騒いだんだから先生の1人や2人来てもおかしくはないよな…」
「来なきゃおかしいわよ。ただでさえ下校時刻守ってないんだし」
僕の言葉は響子に一蹴された。
「み、見てこようか?」
明らかに腰の引けてる俊夫が、勇ましくも名乗りを上げたが彼にこの状況をどうにかすることが出来るとは到底思えない。それは皆も同じらしくエミは肩をすくめ、さらりと冷たい台詞を吐いた。
「馬鹿みたい。1人でどうこう出来ることじゃ無いでしょ。何か起こっているのは確実なんだから、私達は確実に逃げればいいのよ」
「でも、何が起こっているのか気にならないのか?」俊夫の言葉を、エミは鼻で笑った。
「それより命の方が大切でしょ。どうでもいい好奇心に振り回されて、命を捨てる気はないわ」
きっぱりと言い、エミは俊夫を挑むように見た。 「私、逃げるわ。出口を探す。皆はどうするの?」