どう足掻いても駄目だと悟ると、俊夫は身を翻(ヒルガエ)し、手近な扉に飛びついた。公平も別の扉に飛びついている。窓ガラスがミシミシと音を立てた。
「こういう場合、ガラスが割れたら保険効くのかしら…?」
この局面であまりに呆れたことを言い、響子は「まあ、あたしには関係ないけど」と人事のように呟いた。
そして、扉と格闘している俊夫に、近付いていく。
響子の姿は闇にとけている為、俊夫はそれが誰なのか分からなかったらしい。
俊夫は顔をひきつらせた。僕は響子のすぐ後ろにいるため、俊夫の表情がよく分かる。
「ひぃぃっ。来るなあっ!!」
情けない声を上げて、俊夫がへなりと座り込む。僕は本気で、これからの部活の行く末を憂いた。
響子が思いっきり不機嫌な顔になり、俊夫にまた一歩近付いていく。これでもまだ、俊夫は響子が分からないらしい。
そういえば「僕の視力は眼鏡でも0.6くらいなんだよ」という、自慢にもならない事を昔言っていた。
「俊夫」
見かねて僕が声を掛けると、俊夫は目に見えてホッとし、それからバツの悪そうな表情になった。