カラン──。

頭の上からした鈴の音に体が跳ねる。



「いらっしゃい」



はっきりした声に、そうかここはなにかの店だったのかと納得した直後のこと。

私の思考は停止した。



……うさぎだわ。

子どもより高く身長が高めの私より低い背丈をした、2本足で歩いて、話すうさぎ。

もふっとした毛がシャツとコック帽に潰され、エプロンで隠されている。



着ぐるみ……にしては、やけにスリムね。



「おひとり様か。こっちへドーゾ」



店員らしい口調と雑な言葉遣いのまざった不思議な話し方だわ。



思ったより強い力にグッと押さえつけられるようにして座らされる。

思わず足の痛みからの解放に熱い息が零れた。



「あの、あなたは……」

「シェフです」

「いえ、その。姿が……」

「うさぎです」

「あ、やっぱり。
でも本当は……?」

「うさぎです」

「……はい」

「はい、水」



これはなんなのかしら。



わかったのは、ここが飲食店で、このうさぎがシェフだということ。

しかし、メニューはくれないらしい。



うさぎがシェフってどういうことなのか。

解けないナゾは気にしないでいた方がよさそうね。