私は顔を上げた。

トンネルの中は暗くて、ぼんやりとしか顔は見えなかった。

よかった……雨の顔、直視するの、つらい……。




「……過去って、なくならないよね」


私は独り言のように呟いた。

「うん……」

相手の過去を苦痛に感じても、過去は絶対に消えてはくれない……。

「雨ってば……言わなければ、よかったのに。私……そのままずっと、雨のこと、大好きでいられたのに」

「……ごめん」

「……辛いよ」

「………………」

雨は黙って聞いていた。


「…雨のこと……好きなのに」



「世界中の誰より、どんな人より絶対に好きなのに」



「今は、雨の顔を見るだけで、なんだか、もう………」

「ごめん」

違う。

そんな言葉が聞きたいんじゃない。


「謝らないで……私も、悪いの」

「私……笑ってあげたかった。笑って……"そんな事があったんだ。でも気にしないよ"って……」


「あのことは……俺が一生背負って行く責任で、フミまでが、それに苦しむことは、ない」