「じゃ、行くね?」
「はい、さよなら!麻帆先輩!体には十分気をつけてください!」
「わかってるー!」
大きい声でお互い手を振って分かれた。
現実って、こんなにも厳しいものなんだね?
あたしの思い通りには進めない。
ずっとずっと生きたい、生きていたい、と思っても、いつかは迫ってくるんだよね?
"死" という言葉が・・・・
愛雅・・・・
あと、何回この名前を呼ぶことが出来ますか?
もう、きっとあたしの死はすぐそこまで迫ってきていると思う。
たとえ、ゆっくりだとしても・・・・
ゆっくりでも、徐々に近づいてきているのがわかる。
ほんとは、こんなの信じたくない。
でも、信じないと・・・何も始まらない。
残り少ない時間でも、これまでにない愛雅との思い出をたくさんたくさん作りたい。
心の底からそう思った。
残り少ない時間を大切に・・・大切に・・・
愛雅と過ごしたい。
そして、しばらくして公園へ着いた。
この公園には実は、色んな事があったの・・・・。
あの、約束意外にも・・・愛雅との幼い思い出が・・・
『麻帆ちゃん、これ、あげる』
愛雅の手に持っていたシロツメクサの指輪をあたしにくれた。
『可愛いね?』
実は、あたしのお母さん、病気だった。
あたしが幼稚園に通っていた頃に倒れて・・・
それでも、お母さんは自分のことより他人のこと。
自分よりも、他人のことをずっとずっと大事に思っていた、そんなお母さんを見て、あたしも " お母さんみたいな他人思いの人になりたい " と思った。
今は慣れているかはわからないけど・・・自分よりも他人のことを優しく大事にしてあげたい。
『麻帆ちゃん、大丈夫?』
優しく、でも心配そうな目であたしに尋ねた。
『うん、大丈夫だよ!全然平気!あたし、強い子になるって決めたから!』
お母さんが病気で倒れて、泣きじゃくるあたしのそばで必死に笑顔にさせようと思ってくれた人がいた。
やっぱ、どんな時でもあたしの隣にいる人は・・・・1人しかいないね?
「愛雅」
公園に来た時に座るベンチに愛雅は腰を下ろして座った。
「ん?」
優しい声で返事をした。
「めんどくさくないの?あたしがこんな体で・・・いつもそばにいるけど・・・」
この前もそう思った。
「車椅子に乗ったあたしが彼女だ、なんて恥ずかしくない?」
「・・・・・」
愛雅はただ俯いたまま顔を上げずに黙り込むままだった。
「ねぇ・・・・なんで答えないの?あたしのせいで・・・・あたしのせいで、愛雅や心愛ちゃんたちを傷つけちゃうんだよ・・・」
あたしばかりを大切に思ってくれているのは嬉しい。
でも、たまに、苦しいしそれがたまらなく寂しいと思う時がある。
時々ね?寂しくて俯いてへこんんでいるような顔をしている時があった。
だから・・・だから・・・・
大切な人をもうこれ以上不安にさせたくない。
悲しんでいる顔なんて見たくない。
だから・・・・だから・・・・
あたしたち・・・
「別れよ?そ、そのほうが愛雅のためになるよ。きっと今よりも幸せになれるよ・・・」
あたしは自分の力で車椅子を動かした。
でも、愛雅は後を追いかけては来なかった。
どうして・・・・
どうしてあんなことを言っちゃったの?
あたしの心に中には後悔しかなかった。
でも、今までありがとう。
どんな時も、誰よりも近くで、温かい目であたしを大事に大事に見守っていてくれて・・・・
ありがとう・・・・
あたしは何があっても、愛雅のことを想い続けると思う。
一生・・・・一生忘れられないものだと思う。
自慢の幼馴染で・・・・最高のあたしの彼氏でした。
あたしの頬に一筋の涙が伝う。
あ・・・・あたし・・・泣いてるんだ。
車椅子を動かす手止めて急いで涙を拭った。
なんでだろ・・・・
こんなにも愛雅を想っているのに・・・
愛雅。
あたしと一緒にいるのって・・・同情?って・・・・たまに思ったりするの。
ごめんね?
ほんと、ごめんね?
愛雅と『別れよ』と告げてから、約1ヶ月が経った今でもあたしと愛がの間は変わることはなかった。
ここ最近、体の具合が悪くて・・・
泣きそうなほど、すっごく辛い。
でも、頑張って頑張って生きたい、という気持ちがあるから・・・・
どんなに辛くても笑っていたい。
そう思った。
「いってきまーす!」
愛雅がいない朝を迎えるのも慣れてきた。
「麻帆、何かあったら先生に言うのよ?」
「わかってるー!」
玄関のドアを開けて、家から出て、隣にある愛雅の家を見た。
あれから、何一つ喋っていなくて・・・
少し寂しいけど・・・・これでいいんだ。愛雅の幸せのためだから、と自分に言い聞かせた。
自分の手でタイヤを動かし、前に前に進んでいく。
ちょっと動かしただけなのに・・・息切れがする。
最近、少し喋るだけでも・・・息切れが半端なかった。
きっと病状が悪化しているんだと思う。
幼い頃、あの公園で『あたしは強い子になるの!』って言ったのに・・・・強い子になんて、なれなかった。
お母さんみたいに、自分のことより他人を優先する心優しい人になりたいと思ったのに・・・・
逆に傷つけてしまった。
ごめんね?
どんな時でもいつも、愛雅やお母さん、大切な人が頭に浮かぶ。
ほんとは、愛雅と別れたくなんてなかったよ?
でも、もうこれ以上、愛雅を不安にさせたりはしたくない。
傷つけたくないの・・・・
あたしのそばにいて欲しかった。
嬉しいことがあると一緒に喜んで泣きたい時は一緒に泣いて・・・・悩んでいる時や苦しんでいる時は温かくて大きな体であたしを包んで安心させてくれて・・・・
でも、もうあたしたちは元に戻ることはできないんだね?
優しく微笑む愛雅の顔が見れないんだね?
小さい頃に約束を果たしたいと思っていたけど、もう無理なんだね?
ごめんね?
破って・・・・・
愛雅・・・・・
あたしはずっと愛雅が大好き。
もちろん、幼馴染としてじゃなくて1人の男として・・・・
あたしの隣にいても辛いだけだよ?
だから、あたしのそばから離れて幸せになってね?
愛雅の幸せをあたしはずっとずっと心の中で願い続けるから。
「麻帆!おはよ!」
後ろから聞き慣れた声が聞こえてきて振り向くと心愛ちゃんがいた。
「心愛ちゃん、おはよ!」
「今日もまた1人で来て・・・」
「ごめんね?・・・・・」
心愛ちゃんにはまだ愛雅とのことを言っていなかった。
「何があったのかは知らないけど・・・また息切れが激しくなったら困るし心配するから・・・だめだよ?」
心愛ちゃんがあたしに優しく怒ってくれた。
あたしのことを誰よりも大事に思ってくれているにがあたしにも伝わる。
あたしも同じで誰よりも大切な人。
あたしと一緒に心愛ちゃんが教室に行ってくれた。
階段を上がり時に車椅子を折りたたんで心愛ちゃんが持って運んでくれているんだけど、あたしたちの横を通って行く人たちも手伝ってくれた。
「ごめんなさい・・・・あたしのせいで手伝わせちゃって・・・」
「麻帆、謝りすぎ・・・・謝るんだったら『ありがとう』って感謝された方が嬉しいよ!」
「そっか・・・ごめ・・・じゃなくて・・・ありがとう」
「そうそう!やっぱお礼言われた方が嬉しい!」
『ありがとう』って、魔法の言葉だね?
たった一つの言葉だけで笑顔になれるもん!
言葉って意外と力があるものなんだね。
階段を上がり切った後、手伝ってくれた人にお礼を言い、去って行った。
心愛ちゃんが車椅子を広げてくれた。
あたしは車椅子に座って教室に行った。
あたしのの席に車椅子を持って行って、カバンをフックにかけた。
「心愛ちゃん・・・・ちょっとだけ話があるの。ここじゃダメだから・・・廊下来て?」
あたしは自分の力で車椅子を動かして廊下に出ようとすると、「わかった」と言ってあたろ前のように車椅子を押してくれた。
水道の近くの人通りが少ないところへ来た。
「心愛ちゃん・・・実は、あたしと愛雅。一ヶ月前くらいに別れたの」
「・・・・」
「愛雅をこれ以上不安にさせたくないしあたしのせいで傷つけたくなかった。寂しい顔なんて見たくなかった。ずっとあたしの隣で笑っていて欲しかった」
「・・・・・」
「でも、最近その温かくて太陽見たいな笑顔が見られなくなって・・・あたしのせいだと思って・・・別れたの・・・」
愛雅と別れた後悔から涙がポロポロと溢れ出して行く。
まだ、好き。
大好きなのに・・・・
自分勝手でごめんね?
こんなあたしでごめんね?
「麻帆・・・・岡本は麻帆のことがすっごく大事だし、好きだから心配したりするのは当たり前じゃん!」
「・・・」
「バカじゃないの?」
あたしの心に心愛ちゃんのきつい一言が刃物のように突き刺さってきた。
「何やってんのよ!岡本がどれほど麻帆のことが好きだったか・・・幼い頃から見てきてわからなないの?」
「・・・・・」
大切なことをあたしは・・・・すっかり忘れていた。
あたしに笑顔も幸せも与えてくれていたのは愛雅だった・・・・
「ご・・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・」
何度も謝った。
一ヶ月前くらい前の『別れよ』、という一言だけで、愛雅を傷つけてしまった。
ほんと、ごめんなさい・・・・
「謝るのはあたしじゃないでしょ?」
さっきまで俯いていた顔を上げて、心愛ちゃんを見るとさっきとは違う笑顔があった。
あたしたちが話している途中にHRが始まる予鈴がなった。
「じゃ、また後で話して来たら?」
「うん・・・ありがとう」
心愛ちゃんが教室まで押してくれた。
あたしはいつも通り窓の外を眺めて先生の話に集中しないでいた。
こういう風に学校の外を見れるのも残り僅かなのかな?
そう思うとなんか・・・・悲しいね?
このクラスのみんなとも離れ離れになるんだもん・・・・寂しすぎる。
なんで・・・なんであたしなんだろう?
なんで、あたしがこんな辛い病気にならなきゃいけないの?
神様・・・・なんで病気はあたしを選んだの?
この時、神様をすごく恨んだ。
愛雅のそばにずっといられなくするため?
いやだ・・・・いやだよ・・・・・
あたし・・・・死んじゃうのかな?
死んだら、あたしはどうなるの?
ずっと、この学校にずっといたい。
愛雅と家族と心愛ちゃんのそばにずっとずっいたい。
だから、1秒でも長く生きられますように・・・・・
HRが終わり、体育の授業になった。
あたしは当然参加できないため、日陰で見学。
今日は、サッカーみたいだ。
あたしはそっと、みんなが頑張っているところを見守った。
当たり前だけど・・・愛雅も。
あたしのこともいつもそばで見守ってくれていたように・・・・
愛雅がちょろちょろとドリブルしながら走っているのを目で追いかける。
昔から愛雅は運動神経がよく、スポーツに中ではサッカーが一番得意だった。
だから、公園で遊ぶ時もいつもサッカーボールを持ち歩いていた。
サッカーをしている時の愛雅はキラキラと輝いていた。
愛雅がドリブルをしながら、シュートを打った。
綺麗にゴールへと入って行った。
「おぉーーーーーー!」
喜びの歓声がグラウンド上に響き渡る!
「やったな?愛雅!」
あたし達のクラスの男子が愛雅に近づき、ハイタッチをして一緒に喜んでいた。
引き続き、試合が開始された。
あたしの目線の先は常に愛雅。
それほど、愛雅が好きだということ。