だけど、後ろには誰もいなかった。


気のせい…か。




「…どした?」


私の顔を覗き込む稲瀬。



「な、なんでもない」


私は笑顔を向け、稲瀬とレジに向かった。












「行ってきます」


翌朝

いつも通りの時間に、家を出た私。




「あ…」

「よう…」


すると、家の前の門に稲瀬がもたれかかっていた。




「…どうしたの?」

「いや、なんか早く家出たから…」

「そう…」


私は玄関の鍵を閉めて、稲瀬に近寄った。




「じゃあ、今日は早めに渡しとくね。はい」


私は、稲瀬の分のお弁当を渡した。




「…いつもすいません」

「いえいえ」

「これやる」

「!?」


稲瀬は、私に何かを差し出した。




「ヅラにゃんこだ!♪」

「そ。くだらないやつのイヤホンジャック」

「くだらなくない!」


稲瀬が私にくれたのは、ヅラにゃんこのスマホにつけるイヤホンジャックだった。




「ありがとう!どうしたの?これ?」


「昨日お前送ったあと、本屋行ったら、雑貨んとこに売ってた。扇風機買ってもらったから、お礼」

「そんな…あれは100均のでしょ?」

「いいんだよ。いつも弁当も作ってもらってるし…」


稲瀬は、私に背を向けてゆっくり歩き始めた。

私はそんな稲瀬の背中を見つめる…