丘からは、花火が正面に見えた。

「見上げなくてもいいだろ?」中尾が自慢げにいう。

「驚いたよ」礼二が感心しながら答えた。

礼二は、中尾が指定した場所にビニールシートを敷いた。

里子を中尾と礼二が挟み、礼二の隣りに玲が座るという横一列な形で、四人はシートに腰掛けた。

ひゅ~、どん。打ち上げられる枠仕掛やスターマインに、四人は、一つ一つ様々な歓声を上げた。

「昔からこの場所は俺だけの特等席だったんだっちゅう話」中尾が急に喋りだした。

次つぎと、打ち上げられるスターマインに目を背けることなく、中尾は語る。

「こんな間近で、パノラマな花火を見られるのは、ここだけ、教えたのは、君らが初めて」

三人は花火から目を背け、不思議な感情を抱きつつ中尾の顔を見た。

「この場所を教えるのは、俺が友達と認めた奴だけって決めてたんだ」そういうと中尾は短くため息をついた。

「一気に三人もできちゃったっちゅうの」

そして彼は立ち上がり、花火に向かって

「たまやー」と大声で叫んだ。

彼の声に呼応するかのように、ナイアガラと称される花火が打ち上げられ、上空でオレンジ色の火の粉が一斉に流れ落ち、夜空を彩った。

──長年付き合っている友人でも、話せない秘密はある。だが、出会ったばかりの友人に、何年も隠してきた秘密を、ふと語ってしまうこともある。

──それは絆という見えない友情を超えた、なにか直感めいたものが働くのではないだろうか。

──中尾は短い期間に仲間礼二、森永里子、水谷 玲を友人にしたいという気持ちの表れを、自分のとっておきの場所に招待することで、気持ちを示したのではないか。礼二は、中尾の言葉をそう感じ取った。