「ん、ちょっと痛いかな」玲がいった。「ちょっと見せて」礼二はしゃがみ込み、下駄の鼻緒があたる彼女の親指と人指し指の間を、確認した。玲の指の間の皮膚が鼻緒と擦れ合い、皮が少しむけていた。

「やっぱり」礼二はそういうと、リュックの中から消毒液とテーピングを取り出した。「テーピングを指の間に巻くと楽になるから。水谷さんが終わったら、森永も見るから、ちょっと待ってて」里子は「う、うん」頷いた。彼は玲の指の間を治療し始めた。

「中尾、先に行っててくれ」礼二はいった。「オッケー。玲ちゃんもお里も、治療が終わったらきなよ」中尾は彼女らに声をかけると、階段を上がっていく。

「仲間くん。ありがとう」玲はいった。

「うん。水谷さんも先に上がってて」礼二はそういった後「森永も足見せてみなよ」彼は里子に手招きした。

「じゃあさっちゃん、先に行ってるね」玲が階段を上がっていった。

礼二は里子の指の間も、皮がむけているのを確認した後、治療を施し、テーピングを巻き始めた。里子は彼に足を触られる恥ずかしさと、嬉しさで、顔が熱くなるのを感じた。

「よし、これで鼻緒があたっても痛くないだろう」そういうと、礼二は立ち上がった。

薄い灰色を混ぜ溶かした風景になりはじめた。礼二と里子は長く狭い階段を共に上り始める。「よ、用意が良いね?」ふいに彼女が礼二に訊いた。彼は、ん?あぁ、というと

「昨日森永さ、中尾が丘の上で花火を眺めるっていってただろ。けっこう歩くと感じたし、森永と水谷さんは、多分浴衣でくるだろうと思った。それから──」

そういった彼は、リュックから虫除けスプレーを取り出すと、里子に見せた。「蚊も多いと予想してたしね」片手に持ったスプレー缶を、軽く横に振りながら言った。里子は黙って聞いていた。

階段を上がり始めてからどのくらい経ったのだろう。「おーい。れいじくんにお里、もう花火始まってるぜー」すでに頂上に着いている中尾が、二人に呼びかけた。玲も頂上から、早く、と手招きしている。

すっかり太陽は沈み、辺りは暗くなっていた。先程まで気にならなかったが、耳をすますと、花火の打ち上がる音が断続的に聞こえてくる。

「おぉ、すげーじゃん」頂上についた礼二は、感嘆な声を上げた。