「それだけを言いに図書館に来たの?」玲が訊く。

「そだよ。可愛い女の子二人を誘うためにだけに、ここに来たっちゅうわけ」

「中尾くんて、いつも突然だね」そういうと玲はくすっと笑った。「私、今夜お母さんに行っていいか訊いてみるね」表情をにこやかに、彼女はいった。

「さっちゃんも行けるよね?」彼女は誘うような口調で里子に声をかけた。里子は「う、うん。たぶん」首を傾げて曖昧に答えた。

「仲間くんも誘うんでしょ?」玲が中尾に訊いた。

「オフコース。れいじくんはどうやって誘うかな」

そう中尾が思案し始めた。

すると───

「わ、私が誘ってみる」

声の主は里子だった。





12

「な、仲間くん。明日の夜、み、みんなで、は、花火大会いく計画立ててるんだけど、よ、予定空いてるかな?」

森永里子が、ゆっくりと丁寧な口調で、誘いを持ちかけてきた。

「みんなって、プールに行ったメンバー?」

「う、うん」

「そっか──うん、いいね。予定空けとくよ」

礼二は答えながら、里子に誘いかけられるなんてと少し驚いていた。

礼二はこれから毎日手提げ鞄持ってやるよと昨日いった言葉通り、翌日も、坂道で里子の手提げ鞄を、自転車の籠に入れていた。二人は並んで歩いている。その途中に、里子が、明日行なわれるという花火大会を誘ってきたのだ。

別れの交差点までに、彼女から明日の予定を聞いた礼二は「わかった。なにか質問があれば、明日の朝にでも訊くよ」と言って里子と別れた。

別れ際、里子は礼二に向かって「ありがとう」と礼を言葉にした。






13

礼二は塾につくと、席についた。

──明日の花火大会のことで頭がいっぱいだった。だが彼は父親の言葉を忘れてはいなかった。

──『恋は身を狂わす』

──自分は勉強も恋も両方抜かりはしない。文武両道という言葉がある。俺は文恋両道だ。胸の中でそう誓った。

──その誓い通り、礼二は勉強と恋を分けていた。勉強中、少しでも玲が頭を過ぎると、勉強を中断し、五分間、玲のことのみ考えた。

ドン小谷が教室に入ってくると生徒達を見渡した。