晩。仲間礼二は自室で復習をこなしている。

しばらくしてシャーペンを持つ手が止まる。

心がざわついて思いが勉強に向かない。

集中力はとうに切れていた。

彼は大きく伸びした。そのままのけ反り、天井を見上げた。礼二の体重を受け止めた椅子が、ぎぃと音を立てた。

彼は天井を眺めたまま動かない。

中央図書館の美少女。今日名前を知った。

水谷 玲。素敵な名前だった。

彼女のことは中央図書館の外で眺めるだけで満足だったはず。

水谷 玲の姿を見るだけで幸せになる。

それだけで良かった。

それ以上は考えないようにしていた。

今では館内に立ち寄ったことを後悔している──かどうかはわからない。

一つ長い息を吐くと、礼二は椅子から立ち上がり、ベッドに腰掛けた。

今では礼二の思考の全てを水谷 玲が支配している。

談話室での彼女は、想像通りおしとやかな美少女だった。

マシュマロのような白い肌、笑うと並びの良い白い歯が印象に残っている。

中でも彼女のややつり上がった切れ長な二重が、礼二のお気に入りのパーツだ。

彼氏はいない。中尾のいたずらな笑みを思い出す。

礼二は寝転び、ベッド横の壁をじっと見つめた。

玲のことを考えると、全てを忘我し、無防備になる自分を気づくまでに時間がかかる。それは礼二にとって、とても心地良い放心だった。

不意に黒いもやが礼二の頭の中にかかった。

もやの原因はわかっている。

森永里子だ。

水谷 玲と森永里子は友人だ。それも幼馴染み。

彼は思い悩んだ。水谷 玲と仲良くしたいという気持ちはあるが、森永里子とは距離を置きたい。

里子と繋がると、何か不幸が起こるのではないかと感じさせるあのオーラが好きになれない。

深く考えても仕方ないか。とにかく今日は疲れた。彼はそのまま眠りについた。