当時HIVを題材としたドラマが流行っていた。

女子高生が、援助交際でエイズとなり苦悩する。彼女を支える音楽プロデューサーと儚い恋愛をする話だ。

中尾は、このドラマにあやかって虚言づいたのだと、里子は思った。







「お里と友達かい」

中尾真也は水谷 玲に興味を示し、訊いた。

「はい。そうですけど、お里って?」玲は中尾に訊き返した。

「ん?里子だからお里。あだ名。なんかおかしいかい?」

中尾が当然のようにいうとジュースを一口飲む。彼が選んだのはコーラだった。

玲は、いえ、と答え、あだ名という言葉に対して嬉しそうな表情を浮かべた

「れいじくん、なんか緊張してね」中尾が訊きながら礼二にファンタオレンジを差し出した

仲間礼二が初めて口を開いた。「え、いや、あの、」しどろもどろした口調だ。中尾から渡されたファンタオレンジのプルタブを開けるのに手間取っている

いつもの冷徹で、人を見下している印象の強い彼と、今の彼とは、正反対だなと里子は感じた。百獣の王から草食動物に、一気に降格したようにも見えた。

ファンタオレンジをぐいっと飲むと「お、俺───」仲間礼二は、たどたどしく自己紹介をした。無論水谷 玲にだ。玲も呼応するようにフルネームを告げ、通っている自分の学校名を云った。みんなの行ってる学校より全然レベル低いけど、と言葉を加えた。

「いや、あの、素晴らしい女子高だと思います」礼二は云った。「いえ」玲は手を小刻みに振ると、照れた仕草をみせた。里子は何が素晴らしいのかなと素朴な疑問を抱いた。

玲は炭酸が苦手だと言って烏龍茶を選んだ。中尾にいただきますと告げてから、口をつけた。中尾は玲に、にっこり微笑んだ。

「えっと」玲はちらりと中尾を見た。すると里子が「か、彼は中尾真也くん」ぼそぼそと呟くように、彼を紹介した。里子は最後に余った缶コーヒーに手を伸ばした。

礼二は里子が喋る姿を初めて見た気がした

「玲ちゃんは彼氏いるのかい?」

コーラを飲み干した中尾が唐突に訊いた。

玲は頭を振って答える「そんな、全然です」すると中尾は礼二に向かって怪しい笑みを投げた。

彼の笑みの意を知った礼二は、焦りを隠すためか「水谷さんと森永って、どういう関係」と早口で訊いた。