森永里子と水谷 玲が、館内で、ある本を探していた。随分永い間探している。

作画の資料となるものだ。玲も里子のために一緒に探していた。

目当ての本を見つけたのは里子だった。

彼女は目的の本を振って玲に知らせた。里子に気づいた玲は、彼女に向け親指を立てた。

自分達の席に戻ると、一人の男子が壁ガラスに向かって立っていた。

窓ガラスに叩きつける雨を見た玲が「あっ」と声を上げた。

声と同時に男子が振り向いた。彼女は続けて「すごい雨」と言った。

振り向いた男子を見た里子は、心の中で、あっ、と呟いた。

声には出していないが、彼女の唇は半分開いて止まっていた。

里子は窓際に立つ男子を知っていた。

クラスメイトの仲間礼二。学年でトップクラスの秀才だ。

不意に背後から「れいじく~ん」と声がした。

図書館で大きい声は厳禁なのに。里子は、館内の風紀を乱す声主にできれば注意したかった。

里子は背後からした男の顔を見て、さらに驚いた。

彼も知ってる顔だったからだ。中尾真也。

仲間礼二は玲の顔を見ながら、呆然としている。

玲は仲間と中尾を交互に見つめ、ん?ん?と首を傾げている。

玲は驚きの表情を浮かべる里子に「知り合い?」と耳打ちした。

彼女はゆっくりと頷いた。







中央図書館の二階に談話室が三つ設けられている。

室内は男女共に二人ずつ居る。男は一人ずぶ濡れだった。

談話室に行こうと提案したのは中尾真也だった。彼は自販機でジュースを四本買い、テーブルに置いた。

中尾はリュックからタオルを出すと、髪を乱雑に拭いた。

何気にジュースを買う中尾の配慮、さらにタオルを持っていることに対して、準備がいいな、と里子は思った。

中尾以外はパイプ椅子に腰掛けている。自己紹介もないまま、突然中尾が云った

「今日、本田宗一郎が死んで七回忌だね。彼の功績は歴史に大きく刻んでいる」

全員が「えっ」と疑問を投げるように応えた。彼のTシャツは、身体が透けるほど濡れていた。

中尾はその場の空気を読まずに続けた。

「世界のホンダの創業者。知らない?」

彼はきょとんとしながら云う。その場にいる四人は、ぽかんとしていた。