この時、礼二は、美少女と森永の関連性を全く視野に入れなかった。

美少女は既に帰宅しているのだと思い、後から森永と彼女の友人が中央図書館に訪れ、この場所で何かをしているのだと無意識に思考していた。

出よう。

森永と顔を合わせるのは嫌だ。

坂道のこともあるし、なんとなく気まずい。

正直森永という人間が好きではない。

明確な理由はない。

礼二はすぐ行動に移した。

彼が顔を上げた瞬間、ガラス壁の向こうに意外な人物と目が合った。

彼は雨宿りをしているようだった。

リュックを雨避けとして使っていたのだろうか、ひどく濡れていた。

豪雨の前で立ちすくんでいた彼と、目が合ったのはまさに偶然だった。

ガラス壁の向こうの彼は礼二の姿を見て、驚いたように目を大きく開けた。

そして礼二に向かって口をパクパク動かした。礼二には彼が何を云ったのか理解できた。


「ハローれいじくん」だ。


こんなとこで変人王子と出会うなんて。礼二の表情はさらに曇った。

人生で関わりたくない人物と、二人同時に出会いそうなのだ。苛々が右肩上がりで上昇する。

その時、後ろから「あっ」と声がした。

今度はなんだというように彼は乱雑に振り返った。

声の主、彼女の姿を見たと同時に礼二の体を動かす全機能が、ぴたっと停止した。

白紙になった。

その後の「すごい雨」は彼の耳に届かなかった───