館内に入ると、安らぎのクラシックが流れていた。

この曲名はなんだっけな、全身を落ち着かせるため、礼二は別のこと考えた。

手のひらが汗ばんでいる。彼は呼吸を整え、あの美少女が座る木製の椅子に目を向けた──

「はぁ」礼二は深いため息をついた。

緊張で強張っていた肩が、ため息と共に沈む。

落胆の色を隠せなかった。

淡い期待は、ガラス玉が地に落ちるように砕け散った。

落ち込む気持ちを隠せない。礼二はいつも美少女が座る木製の椅子に近付き、腰掛けた。

彼はもう一度ため息をついた。

目の前の机にはノートや筆記用具、中世の背景に猫が勇ましく描かれた画用紙が置いてあった。

人の居る形跡がある、ということは、あの美少女はまだ館内にいるかも知れない。

礼二の燻っていた心臓にまた火が点った。

何気に彼が床に目を落とすと、手提げ鞄を二つ発見した。

礼二は一方のチェック柄の手提げ鞄をどこかで見た覚えがあった。

考えるまでもない。森永里子。あいつだ。この鞄は森永のだ。

間違いない。

毎日嫌というほど拝んでいるのだ。

ふいに彼は顔を歪めた。あいつが館内にいるのか。

仕合わせな気分が一気に散らかった。